五月三〇日、給料を二か月分振りこんだ。
翌日、社員たちがいぶかしがって会社に電話があちこちの現場から入った。もう一刻も猶予がならなかった。その日の一二時、本社に急遽全員に集合してもらった。
社員はもう事態を悟っていた。
私は挨拶をした。
「会社は今日をもって六〇年にわたる営業を止めることにしました。精一杯努力しましたが力尽きました。皆さんにも現場や事務所で本当に頑張っていただきましたが、この、時代の厳しさには勝てませんでした。皆さんの期待を裏切り誠に申し訳ありません。今後は別の進路を選択され、新たな人生を開拓されていただくことを祈念します。本当に申し訳ありませんでした」
人生で忘れることのできない挨拶だったが、不思議と気持は平静だった。感情が高ぶる余裕がなかった。
ついで専務が挨拶した。
「皆さん申し訳ありませんでした。いま社長が言ったように我々は全員頑張ったと思います。このことは自慢になります。会社はこうなりましたが、きっとこの会社にいたことは誇りになることがあると思います。だから他の会社で働くようになっても決して卑屈になることはありません。せっかく皆さんと一緒に働いてきたのにこのようなことでお別れするのは残念です。体に気をつけて新たな場所でまた一層頑張ってください。長い間ありがとうございました」
専務は涙を流し、声を震わせて挨拶をした。社員の何人かはすすり泣きをした。
集合が終わると社員は車のキー、ガソリンチケット、会社の鍵、携帯、健康保険証などを返還した。そして「解雇予告通知書」に押印をした。
何十年もの会社との共生が、押印という一瞬の作業で閉じられた。
開放になっている役員室に入ってきて一人ひとり挨拶をして去っていく。私の手を両手で握りしめていく社員もいる。私の著作を持ってきて、サインを請う社員もいる。それが経営として良いか悪いか知らないが、自由で働きやすい会社だった。私は自信をもってそう言える。社員もそう思っていた。自分が拘束されるのがイヤだったから、社員にも極力拘束をしないような社風にしてきた。そういった会社運営に悔いはない。
(『なぜ会社は大きくすると潰れるのか』より)

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著 者 |
不破 俊輔 |
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定 価 |
1‚680円(税込) |
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初版発行 |
B6並製 |
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ISBN |
ISBN978-4-7569-1193-3 |
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ページ |
268 |
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版 型 |
B6並製 |
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