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 2017年09月
明日香情報局
2017年09月



私の「お地蔵さま」理論 ―外国人に日本について質問されて・・・

 私がグローバルマインドの必要性を強調する時の、たとえ話として15年間繰り返し使ってきたのが、私流「お地蔵さま」理論です。大学の新入生が友達同士で週末に郊外にハイキングに行ったとします。その時、仲間の中にいた留学生に道端のお地蔵さまについて、「これ、何?何のため?」と聞かれたとします。
 日本人だけのグループだと、おそらくは出てこない話題ですね。まったく予期しない質問で、さあ困った!どう答えましょう?「名前はお地蔵さまというのだけど、・・・うーん、えーっと・・」となってしまう公算大ですね。日本語でも考え込んでしまう質問を、英語で回答出来ますか?日本人であっても、誰にとってもかなり難しいことですね。「今晩ネットで調べておくから、明日、また教えてあげる」と時間稼ぎし、翌日、次のように答えられれば上出来でしょうか。

Jizo, or more precisely Jizo Bosatsu, is a Buddhist guardian deity who is believed to protect people, especially children and travelers. Stone statutes of bald-headed Jizo, either standing or sitting, seen here and there at country crossroads all over Japan, hold a metal stick in his right hand and a string of beads in his left hand. They are seen sometimes in places where there used to be traffic accidents or something before.

(お地蔵さま、より正確には地蔵菩薩は、特に子供や旅人を守るとされている仏教の守り神です。日本のどの地方でもあちこちの四ツ辻に置かれていて、頭は丸坊主、立像か座像の石像で、右手に錫杖、左手に数珠を持っています。かつて交通事故などがあった場所に祀られていることもあります。)

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 この英文のなかで一番難しい単語はおそらく deity でしょう。ネイティブスピーカーでもほとんど使うことのない単語です。例によって、ラテン語からフランス語を経由して来た言葉です。「ディアティ」と発音し、「神格」「神性」などと言う意味です。こんな高尚な単語が使いにくかったら、ごく単純に「シンボル」などと置き換えていっても、相手は理解してくれるでしょう。

 あるいは留学生と日本の宗教について歓談していて、「日本って、キリスト教徒は迫害されてるの?それとも彼らが日本を牛耳っているの?」と聞かれたとしましょう。これも大半の日本人にはまったく予期出来ない質問で、人生でほとんど考えたことも無い類の疑問だろうと思います。

 日本のキリスト教徒の人口比率は、たかだか2%であり、歴史的経緯からクリスチャンが多い長崎県でも4%程度と言われます。アジアではフィリピンや東ティモールは言うに及ばず、お隣の韓国やベトナムといった国と比べても、日本のクリスチャン人口比率は低いのです。日本全体が超世俗的な社会ということもあり、誰がキリスト教徒かということも、ほとんど知られず話題にもならないことが多いです。神道や仏教が主流の国ではあっても、結婚式をキリスト教的に挙げたり、年末に向けて国中がクリスマスムード一色に染まったり、宗教的には非常に柔軟で寛容な国です。しかも、日本は進学、就職などの場面で、公正な実力主義が浸透しており、 キリスト教徒だからと言って、優遇も冷遇も全くされていません。キリスト教の大学が幾つもありますが、入学試験さえ突破すれば、誰でも入学できます。歴史的には布教の段階で、大名は別としても、最下層の人々が多くクリスチャンに改宗したことも事実ですし、要するにキリスト教徒が支配層を占めているわけでもなく、逆に差別されているわけでもないということです。以下のような英語の説明でおよそ理解してもらえるでしょう。

Christian population's ratio is less than 2% of Japan's total population, and no body cares who is Christian or who is not, reflecting its highly secular nature of the society. Also, a very high level of meritocracy system prevails in school's enrolment, company's recruitment, etc., and, therefore, being a Christian is neither advantageous nor disadvantageous in whatever terms. In short, Christians are not ruling Japan nor are ruled or discriminated in Japan at all.

(日本のキリスト教徒の割合は2%にも満たず、社会が極めて世俗的なこともあり、誰もどの人がクリスチャンであるか否かなど気にしません。しかも学校や会社なども非常に厳密に成績重視で人選するので、いかなる意味においても、クリスチャンであることがメリットになったりハンディキャップになったりすることはありません。要するに日本では、クリスチャンが社会を仕切っているわけでも差別されているわけでも全くありません。)

 いずれにしても、普通に日本にいて日本人同士だと、当たり前すぎて話題として取り上げない話題や事柄が多くなります。しかし生活環境の中に外国人の友達がいたり、海外旅行等々で、異文化の要素を取り入れると、突然、違いを感じて考え始めることになります。そして改めて気づくのは、日本語ですら説明できないものを、英語で説明出来る筈がないという、いとも当然な事実なのです。

 海外に一度出ると、日本で普通に暮らしているだけでは分からないことも意外と多いものです。例えば自動車教習所について。日本では、高校3年が終わる頃、あるいは大学生になってからの最大の関心事の一つは運転免許ですね。当然、皆が教習所へ行き、今なら一か月以上、30万円くらいもかけて運転免許を取るのでしょう。合宿訓練という手もありますが値段は似たり寄ったり。
 でもそもそも教習所という制度、世界では本当に珍しい制度であるとご存じだったでしょうか?アメリカにもヨーロッパにもありません。アフリカにある筈がないですね。アジアでそれに似通ったものがあるかどうか・・・。要するに教習所というもの、世界にはほとんど無いということです。アメリカなら、週ごとに詳細は変わるでしょうけど、カリフォルニア州なら、30ドルで免許を取れ、それはペーパーテストを受け、自分の車で実施試験も受け、合格したら、写真を撮り、免許を自宅に郵送してくれる全部の経費込みです。日本の百分の一の費用ということです。ちなみに私が40年近く前にカリフォルニア州で免許を取った時は、確か3ドル25セントでした。当時のレートで約3千円。今と変わりません。将来アメリカに留学予定があれば、免許はアメリカで・・・と考えてもいいですね。
 たいへん結構な社会勉強になります。

 もう一つの事例は例えば就活です。日本人学生に、世界では、日本のような就活は無いんですよというと、全員が目を丸くして、驚きます。世界では、空きポスト補充が大原則で、そのポストに即戦力を求めるので、若い人を雇って何カ月も研修を施すなどということは有り得ません。いきおい求めるのもよりシニアな層になり、反面、若者は失業に喘ぐことになり、より上の学歴や資格を求め、研鑽を続けるということになります。学生時代のある時期に、同期の大学生が、よーいドンで就活レースに入り、ある時期に内定が出て、卒業後の4月1日に入社式に新入社員が全員スーツ姿で着席、社長から訓示が・・・などという図は世界には無いのです。入社式の映像を外国人が見ると、逆に目を丸くして驚くでしょうね。日本は実にユニークなのです。世界では普通、履歴書(résuméとかCVとか言います)に写真を貼ったりしません。そうだからこそ、ソニーのように、世界標準に即して、通年採用を行ったり、大学名を問わないといった採用方法が、目を引くわけですね。

 以上のような一度海外へ出ないと実感できないような日本と世界の違いを知るというのが、何故有用かというと、日本の運転免許が取れなくても、日本式の就活に失敗しても、ものの見方に余裕と多元性があるため、一歩離れて客観的に、それで世界が終わるわけではないと冷静に考えることが出来、その他の方法を追求できるということなのです。仮に人生に行き詰って、「もう死にたい」と思っても、ちょっと大袈裟に言えば、宇宙空間から地球を見れば、地球上で夜のところもあれば昼のところもあり、雲がかかっているところもあれば晴れのところもあります。人生、山あり谷ありかと思えば、目から鱗が落ちるというか、むしろ発想の大転換が出来ますね。

 いずれにしても異文化に触れて、「何故、あれはそうなの?」「外国って違う!」と考えることが、グローバルマインドを育み、同時に頭脳を鍛えます。
 例えば、よくユダヤ人は優秀だと言います。一つの理由として、祖国を失い、離散し生き延びたいろんな国で、周囲に埋没、同化することなく、ユダヤ人として生活していて、常に周囲との違いや自分たちの特異性を意識する生活環境にあるからと説明されることがあります。まんざら荒唐無稽な説明でもないのではないでしょうか。

 理想は海外に行ったり、異文化環境のなかに身を置けば一番良いのですが、仮に日本に生まれた日本人が普通に国内にいる場合であっても、自分を敢えて異邦人の立場において、世の中や周りを見つめ、変だと思う事、気になることを気に留めて、考える習慣をつけていると、神経が研ぎ澄まされてきて、頭脳もしなやかに逞しくなっていきます。

 いずれにしても他国や他民族、他人との違いに気付き、それを楽しみつつ何故かと考え、そしてそれを例えば英語で説明しようとすること、そういうグローバルマインドこそが、遠く見えて、案外、グローバル人材や英語への近道なのです。 (続く)


タイトル 『目から鱗! 気分を変えて英語に向き合う処方箋!』           ~ 理想や虚像に幻惑されないで、足元から着実に ~ 

千葉大学教授 小川秀樹 (国際社会論・グローバル人材論)

1956年生まれ。79年、早稲田大学政経学部卒業、ベルギー政府給費でルーヴァン大学留学。国連ESCAP(バンコク)、在イスラエル日本大使館勤務等を経て、横浜国大大学院博士課程修了。岡山大学教授等を経て、2016年より現職。

 著書に『ベトナムのことが3時間でわかる本』(明日香出版社)、『あなたも国際貢献の主役になれる』(日経新聞社)、『ベルギーを知るための52章』(明石書店)、『学術研究者になるには 人文社会系』(ぺりかん社)、『国際学入門マテリアルズ』(岡山大出版会)等、多数。



語源・類語から一挙に単語を増やそう!

 
前回は日本語に入っている外国語(英語を含む)と言う切り口で、どれほど沢山の英語や外国語を日本人が知っているかを明らかにしましたが、今回は一つの単語から連鎖的にどれほど語数を増やせるかという側面に焦点を当てます。語源・類語という観点に注目すると、それは可能になります。

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語源や類語を活用、語彙は爆発的に増える!!


 
単語10個に限定して見て行きます。これらの単語も、日本語に完全に入っているものから選びました。まずは本連載冒頭で monotonous (単調な)という語に絡めて「モノレールやモノクロ」と言う話を出しましたので、それから初めてみましょう。

1 モノクロ
monochrome 単色・白黒のと言う意味です。この mono と言う「単一」を示す接頭辞からは多くの派生語が出来ます。monocoque モノコック・一体化ボディー構造、monocracy 独裁政治、monoculture 単式農法、monocycle 一輪車、monogamy 一夫一婦婚、monogenesis 生物の単一起源説、monogram 組合せ文字、monograph 特定分野の学術論文、monologue 独白劇、monomania 偏執狂、monopoly 独占・専売、monorail モノレール、monotheism 一神教、monotone モノトーン等々

2 フィードバック
すでに日本語です。元々、出力側から入力側へ再度、情報・エネルギーなどを戻すことです。Feed は元々、食べさせる・原燃料を供給するという意味。Feeder で、飼育者・エサ箱、支流と言う意味、feeding bottle で哺乳瓶、be fed up with ~で飽き飽きする。サッカーでも前のスペースに長いボールを蹴ることを(ロング)フィードといいますね。デートなどをしていて、相手に Please feed me! と言えば、ちょっと冗談めかした面白い空腹の表現になりますね

3 リテラシー
識字能力・読み書き能力のことです。最近ではメディアリテラシー、情報リテラシー、コンピュータリテラシー、会計リテラシーなどと範囲が拡大されつつあります。類語で重要なのが、literate 読み書きが出来る・教育を受けた(例えば computer-literal コンピュータに通じた)、その逆の illiterate 読み書きのできない、literal 文字通りの・逐語的な、literalize 文字通りに解釈する、literally 逐語的に・文字通りに、literary 文芸の・文学に通じた、literature 文学等々

4 オーバーラップ
overlap は重なり合うという意味ですね。Over は、限度を超えて・過大に・極端という意味で、まさに単語を量産する接頭辞ですね。以下、そのごく一部です。Overact 大袈裟に演じる、overall 全般に、overall majority 絶対多数、overbook オーバーブック・超過予約、overcast どんよりした・陰鬱にする、overcharge 高値をふっかける・盛り込み過ぎる、overcloud 一面に曇らせる、overcome 打ち勝つ、overcommit 必要以上にのめり込む、overconfidence 自信過剰、overcooked 焼き(煮)過ぎた、overdo やり過ぎる、overdrink 飲み過ぎる、overdue 期限を過ぎた、overestimate 過大評価する、overexposure 露出過度、overfeed エサをやり過ぎる、overflow 溢れる、overfly 領空侵犯する、overgrow 成長しすぎる・はびこる、overhand 上手投げ(打ち)の、overhang 覆いかぶさる、overhaul オーバーホール、overhead 間接費・諸経費、overheat オーバーヒート、overload 荷を積み過ぎる、overlook 見過ごす・大目に見る、overly 過度に、overnight 一晩・一泊の、overpass 陸橋・高架交差路、overpay 余分に払う、overpower 力で制圧する、overqualified 必要以上の学歴実績がある、overreach 行き過ぎる・策に溺れる・出し抜く、override 覆す、overrun オーバーラン、overseas 海外の・海外に、oversee 監督する、overshadowed 影を投げかける、overstay 限度を超えて長居する、oversupply 供給過多、overtake 追い抜く、overtask 無理な仕事をさせる、over-the-counter 店頭販売の、overthrow 政府などを転覆させる、overtime 残業・超過勤務、overweight 超過重量、overwhelming 圧倒的な、overwork 酷使する、overwrite 上書きする等々

5 メイキャップ
日本語では女性にとってはるかに馴染みがある言葉です。しかし make-up は、本来もっと広範囲で使われます。動詞なら、仕立てる・構成する・でっち上げる・化粧する・埋め合わせる等々の多くの意味があります。学校用語としては、追試験をするという意味すらあります。名詞なら、化粧品という意味もあるし、追試もあります。Made-up として形容詞的な語もあり、でっち上げた・人工的な・化粧したなどの意味です。Make を使った類語として面白いのは、make-believe 見せかけ・ふりをする人、makeshift 間に合わせの・当座しのぎの、made という形なら、read-made 既製品、made-to-order オーダーメイド、foreign-made cars 外国車、making となると、in the making 出来つつある・発達中のという熟語もあります。Peace in the making と言うと、構築されつつある平和ということです。

6 サーチャージ・サープラス
燃料サーチャージで普通に日本語になりました。付加料金ということです。Sur は super と言う意味で、surplus も余剰・過剰と言う意味で、deficit が反対語。例:trade surplus 貿易黒字, trade deficit 貿易赤字。下記も全部 sur で始まります。Surmount 打ち勝つ、surname 苗字、surpass しのぐ、surrealism 超現実主義、surrender 明け渡す・降伏する、surround 取り囲む、survey 調査する

7 サブ(スティチュート)
サッカーなどで交替や交替メンバーに使います。そもそも sub という接頭語は、「下」「下位」と言う意味があります。下記の通り、無限の拡張性があります。subacid 弱酸性の、Subbranch 支所・出張所、subconscious 潜在意識、subcontinent 亜大陸、subcontract 下請け契約、subculture サブカルチャー、subdivide 細分する、sublet 転貸する、submarine 潜水艦、subordinate 下位の、subsequent 続いて起こる、substance 物質・内容・本質、subtitle 副題・字幕、suburb 郊外、subway 地下鉄、等々

8 トランスジェンダー
最近は LGBT など transgender の人々が声を上げるようになり、性差が交錯し揺らいでいる時代です。Trans とは、「超えて」「通って他の側へ」「超越して」「向こう側の」などの意味があります。多くの類語があり、処理する transact、大陸横断の transcontinental、移す・移転する transfer、変貌 transfiguration、変形させる transform、注入・輸血する transfuse、翻訳する translate、伝達・伝導・変速装置 transmission、透明な transparent、移植する transplant、輸送する transport 等々

9 リストア
よく「古い車などをリストアして、乗れるようにする」とか言います。Restore という動詞には、もとに戻す、修繕する、再興・復旧するという意味があります。名詞形になると、restoration で、復旧・復位・修復などという意味です。Restoration でかなりの人が思い出すのが、明治維新 Meiji Restoration でしょう。最近、新しく設立された大阪維新の会が英語の党名を考えて、明治維新との脈絡で、restoration と言う語を採用しようとしたら、英語学者を中心に、大勢から疑問の声が上がり、党名の英訳を変更決定せざるを得ませんでした。Restoration とは、「復古」であって、「維新」ではないというわけです。明治「維新」も政治的には天皇制「復古」なわけです。付記すると、restore には、元気を回復させるという意味があって、フランス語のレストラン Restaurant はここから来ていて、もちろん英語にもそのまま入っています

10 プルーフ・エビデンス
証拠という意味です。Evidence の方が日本語により定着していますね。動詞は prove で、前章最後で映画「ジェーソン・ボーン」シリーズの話をした時、until otherwise proved(そうではないと証明されるまでは)という言い方を紹介しました。Proof には吟味、耐性という意味もあります。最後の耐性という意味合いで、よく使われるのは、防水 waterproof、防音 soundproof、日光を通さない sunproof、耐火 fireproof、防弾 bulletproof などという使い方です。他方、Proofreading となると、一転、印刷物などの「校正」という意味になります。

 さて今回だけですでにいくつの英語の単語を目にしたか、お分かりでしょうか。総計約130個で、10個の英単語から13倍の単語を覚えたというわけです。

 しかも前回の30語も含め、それらの40語は日常的に使われるより、少し難解な外来語を集めたということです。それよりもさらに日本語としてしっかりと根付いている簡単な英語は山ほどあります。アカウントやアドレス、カップルやデート、ホームやアウェイ、アップダウン、スマート・スリム・ファット、ダイエット、タフ、
 シリアス、ドライブ、ドリンク、ターゲット、ペーパー、レター、ポスター、モーター、マシン、スペース等々、まさにありとあらゆる日常的な分野で英単語は無数にあります。中学校レベルの英語と言ってもいいですね。私たちは皆、中学校で必要とされる千とも二千ともいわれる単語数だけでなく、5千とも言われる高校卒業時に必要とされる単語のうち、そのうちの多くをカバーする何千もの英単語を初めから知っているのです。いやむしろ現実は、英単語や外来語が無いと、まさに日本語すら成立しないと言っても過言ではない程なのです。

結論➡ どれほど多くの外来語(英語)を日常の日本語として使っているかということ!すでに語彙の基礎は皆が自然と持っているのです。 (続く)


タイトル 『目から鱗! 気分を変えて英語に向き合う処方箋!』           ~ 理想や虚像に幻惑されないで、足元から着実に ~ 

千葉大学教授 小川秀樹 (国際社会論・グローバル人材論)

1956年生まれ。79年、早稲田大学政経学部卒業、ベルギー政府給費でルーヴァン大学留学。国連ESCAP(バンコク)、在イスラエル日本大使館勤務等を経て、横浜国大大学院博士課程修了。岡山大学教授等を経て、2016年より現職。

 著書に『ベトナムのことが3時間でわかる本』(明日香出版社)、『あなたも国際貢献の主役になれる』(日経新聞社)、『ベルギーを知るための52章』(明石書店)、『学術研究者になるには 人文社会系』(ぺりかん社)、『国際学入門マテリアルズ』(岡山大出版会)等、多数。



8月に発売された澤上篤人さんの最新刊『これが長期投資の王道だ』の発売を記念して、
ライブトークイベントを開催いたします。

澤上篤人さんイベントポスター案.jpg

2017年10月26日(木)18時30分~
紀伊國屋書店大手町ビル店内 紀伊茶屋特設コーナー

日本に長期投資を広めたパイオニアとして、47年間投資運用の世界で実績を積み上げてきた
著者だからわかる「本物の株式投資法」について、余すことなく解説します。

投資を実践している方はもちろん、これから投資をしてみようかなと思う方にとっても有意義な内容です。
投資で成功するために欠かすことのできない知識をぜひ持ち帰っていただきたいと思います。

(※当日は投資ファンドの勧誘等は一切ありません。ぜひ気楽にご参加ください)


【開催要項】

◆日時: 2017年10月26日(木)18時30分~

◆場所: 紀伊國屋書店大手町ビル店内 紀伊茶屋特設コーナー

◆参加方法:  レジにて参加整理券(400円、お茶、ひとくち羊羹付)をお求めください。

◆お問い合わせ:  TEL 03-3201-5084(紀伊國屋書店大手町ビル店 10:00~20:00)

◆定員: 先着20名様


【書籍情報】

1922帯.jpg『これが長期投資の王道だ』(澤上篤人著、2017年8月発行)

●内容紹介

長期投資の第一人者が「本物の株式投資」実践法、その全てを初公開!

構想に8年をかけた「長期投資、実践の書」がついに完成。本書は、これまで踏み込んでこなかった長期投資の考え方から実践法まで、余すところなく解説。 株式投資で成功したい人必読の1冊です。

著者は、日本に長期投資を持ち込み根づかせてきた長期投資のパイオニアです。
そんな著者にも、これまでひとつだけできなかったことがあります。それが、「長期投資の実践法を1冊の本にまとめること」。
なぜならそれは、1冊の本にならないほどの分量だったからです(本書の第2部、約130ページ)。それだけ長期投資の考え方と実戦法に難しいことはないのです。

投資には難しい数式や理論が必要と考えがちです。しかし、長期投資に必要なことは、本書に書かれていることで十分と著者は言います。
ただ、いざ実践しようと思うと、いくつもの難問にぶつかります。
そもそも長期投資とは何か? 株式を買ったらずっと保有すること。そう考えている人も多いかもしれません。でも、そうではありません。本書で澤上氏は「結果として、短期の売りはいくらでもある」と言います。
では、「長期投資」とは何を意味するのか? あるいはまた、なぜ長期投資が有利と言えるのか? 使用する具体的な投資指標は何か?
―― そうした疑問にも真正面から向き合い、すべてを解説します。とりわけ、10章の「付加価値分析」の考え方は必読です。

ほとんどの投資家が追いかけるのは「お金」、そして「儲け」である。投資の本質とは、まったく別物だ。

これまでの株式投資の「常識」といえば、「儲かってなんぼ」といった考え方に端的に表れていたと言えます。
著者は、まさにそうした考え方こそが、投資で儲からない理由であり、ひいてはマネーの暴走を招く元凶でもあると主張します。
一方で、選択しないこと、ただ預貯金にお金を置いたままにしておくこともまた、マネーの暴走を招く要因になっています。

本書は、私たち一般生活者が株主になること、「選択者」の一人としてより自覚的になることの重要性を説きます。
能動的に行動し、選択的に資金を投じることで、より良い社会を作ろうと呼び掛けます。その結果として、利益は自然とついてくる、と言います。

そういう意味で、本書は他と一線を画す投資本です。
株式投資の成功法から、資本主義社会のしくみ、私たちの生き方までをもひも解きながら、社会に対して、どのように自らのお金を投じたら良いか、選択の道しるべを示しているからです。

もちろん、投資を実践する人が利益を享受するための「実践の書」でもあります。 腰を据えた投資で成功したい人、真剣に投資を考えたい人には必読の1冊です。


●目次

第1部 投資というものを考え違いしている

  1章 投資とは名ばかりで、銭ゲバをやっているだけ
  2章 マーケットを甘くみてはいけない
  3章 投資とは、リスクを取りにいくもの
  4章 機関投資家も、投資というものができなくなっている
  5章 世界的にも運用ビジネスの限界がみえてきた

第2部 これが本物の株式投資だ【実践編】

  6章 投資に難しい理論もテクニックも不要
  7章 長期投資のリズムを大事にする
  8章 アセット・アロケーションの切り換えがすべて
  9章 企業の利益成長サイクルを押さえよう
 10章 付加価値分析
 11章 ゼロ成長企業にだって長期投資できる
 12章 本当のお金持ちの運用

第3部 生活者投資家が成熟経済の主役となる

 13章 資本主義の限界とか終焉とかいわれるが
 14章 生活者投資家が資本主義を立て直す
 15章 企業にとって本当の株主とは



どれだけカタカナ英語を使いますか?知っていますか?

 「新アプリケーションのカスタマー向けプレゼンのパワポを作ってくれ。詳しいスペックとインストール情報は別途に。ただし担当スタッフが購入インセンティブについて、あまりコミットし過ぎないよう、しっかり営業ミーティングで事前ブリーフィングを頼むぞ!」

 有り得ない会話?いえ、有り得るでしょう!

 何と120文字のうち半分程度の58語がカタカナの外来語です!

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 さてここでは、例え英語から長らく離れている人であっても、日本人である限り、どれほど多数の、しかもかなり難しい英単語を日本語の中で知っているかということを実感していただきます。当然、グループとかビルディング、ヘルプとかビーチとかという、まさに日常語に入り込んでいる単語というよりは、一段と難しい単語です。中学英語というより、高校(大学受験)以上の英単語になるかも知れません。

 今回は以下、30個の単語を、思いつくままに順不同で列挙します。これら30個の単語には、意味のみを簡単に付記しますが(必要に応じてのみ英語のスペルを加えます)、読み終わったら、知っていた意味以外の意味を新たに知ったり、派生語を知ったり、語彙力は確実に上がります。そもそもこんなに難しい英単語を、知らず知らずのうちに日本語のなかで知っていたのかと、愕然とすること請け合いです。

コミット(メント)(委任・付託・言質・関わり合い・遂行)

マンデート(指示・委任・授権)

リコール(想起能力・罷免・召還・撤回、不良製品の回収・無償整備のための
       リコール)

インフォームドコンセント(医師から十分に説明を受けて、同意の上での
                 治療実施のこと)

サブとロジ(イベント等で、ロジ logistics は後方支援、内容に関わるのが
        substance)

ホスト(主催者やホームステイ先・留学先がホスト。生物が寄生する先(宿主)も
     ホスト)

ドネーション(寄付・寄進・贈与。臓器・血液提供側が donor、経済援助する側も
         donor)

レシピエント(受け入れる側。上記 donor から受ける側)

オリエンテーション(方向付け・方向性。
             political (psychological / sexual)orientation 等)

シーズニング(季節 season から派生、ただし意味は、調味や香辛料のこと)

オプション(選択権・選択可能物の意。Optional となると、選択的な・随意の
       という意味)

アウトプット・アウトカム(単なる処理結果と、それに対して働きかけて得られた
                成果)

アイデンティティ(いうまでも無くIDのこと)

オーソリティ(権威・権限。動詞オーソライズも日本語に入っている)

グラデーション(色などが漸次変化すること。等級・階級も示す)

スペック(正確には specification。明細・仕様・仕様書)

ブリーフィング(事前に簡潔な説明を受けること。活動終了後は debriefing)

フィージビリティ(実行・実現可能性のこと。feasibility study(FS)としてよく使う)

オブリゲーション(義務・責務・債務)

サステナブル(持続可能と言う意味で、sustainable development 持続可能な
          開発)

バナー(旗・見出し。横断幕も。今やIT用語?)

メンター(メンターとは本来、単に先輩とかでなく、恩師のような立場にある
      人物)

インストール(据え付ける。しかし Installment で分割払い、シリーズものの
         一回分)

アントレプレナー(起業家。Entrepreneur、フランス語ではアントルプルヌール)

スイートルーム(「スウィート(sweet = 甘い)部屋」ではなく、Suite room で
           「続き部屋」)

リバーシブル・ディタッチャブル(裏返し可能な reversible、着脱可能な
                     detachable)

ハラスメント(harassment。Academic, power, sexual と種類があります。)

タイアップ(tie-upは会社などが連携することで、Tie-inは抱き合わせ販売など)

レシプロ(エンジン)(reciprocating engine、大事な形容詞 reciprocal (相互の)
             が派生)

オンディマンド(要求あり次第という意、他方、demanding は、厄介な、難しい
          という意)

 以上から私たちはどれほどの英単語、しかもかなり難解なものを日本語のなかで知っているかということが、実感できたことと思います。それらの一語一語について、それぞれ一つか二つ、派生語・類語を覚えるなら、あっという間に30個の単語から100個ほどの単語の知識が得られることになります。

 しかもそれは実は英語だけの問題ではないのです。下記に日本語に入ったフランス語を50個あまり、列挙します。それらはすべて英単語にも入っていて、つまり私たちは、日本語となった仏単語を通じて、英仏両方の言語で知っているということになるのです。後の連載で少し詳しく述べると思いますが、英語とフランス語は語彙的にはかなり直結していて、どちらかを覚えれば、相互に理解を分かち合う関係にあるのです。

 フランス語からの借入語を単語のみ、まったく順不同、思いつくままに列挙します。平均的な大人なら全部、知っているであろうレベルの単語です。

 レジュメ、モティーフ、ナイーヴ、アトリエ、アンケート、コンクール、グランプリ、コンシェルジュ、サボタージュ(サボるの語源)、カモフラージュ、モンタージュ、パトロン、アベック(最近、すたれつつありますが)、ランデブー、シルエット、ラルクアンシエル、エチケット、ニュアンス、トラバーユ、デジャヴュ、アンツーカー、ボンネット、シャシー、メゾン、ブーケ、アンサンブル、プレリュード、シャンソン、バカンス、プロムナード、アベニュー、グルメ、アントレ、オードブル、アラカルト、アラモード、ソムリエ、ポトフ、ピーマン、オムレツ、カフェオレ、カロリー、ブティック、パンタロン、プレタポルテ、アヴァンギャルド(前衛的な)、アンティーク、オブジェ、ジャンル、クーデタ、ブルジョワ等々、本当に無数ですね。

 ついでにオランダ語は、カバン、ヨット、デッキ、ゴム、カン、ビール、コーヒー、スコップ、ズック、ピンセット、メス等々、日常用語として広範囲にわたり多数存在します。面白いところでは、ドイツ、ベルギーなどという日本語の国名もオランダ語から来ています(もっとも日本語のオランダという国名はポルトガル語からですが)。博多の祭りの「どんたく」もオランダ語の zontag 日曜日が訛ったものだとされます。しかしこれらは、日本語として定着し過ぎていて、英単語習得にさほど直結しないので(場合によっては混乱をもたらす)、これ以上列挙しません。

 アレルギー、ガーゼ、カルテ、コラーゲン、ツベルクリン、アンチテーゼ、シュプレヒコール、メルクマール、カルテル、コンツェルン、タクト、ヒンターランド、ゲレンデ、アイゼン、ザイル、ヒュッテ、リュックサック等々、医科学、社会思想、登山用語等に多いドイツ語も然りで、これ以上、深入りしません。

 さて、モットー、フレスコ、レプリカ、マニフェスト、マラリア、インフルエンザ、カジノ、オペラ、アレグロ等、イタリア語から来た単語、アミーゴ、パティオ、シェスタ、フィエスタ、エルニーニョ等、スペイン語から来た単語、ブランコ、ボタン、カボチャ、カッパ、カルタ、ビスケット、カステラ、金平糖、天ぷら、たばこなどポルトガル語から来た単語なども散見されます。

 ついでに議論を少しだけ広げると、文語的な固い表現が多く、馴染みが多いとは言えないラテン語も、フランス語や英語を通じて間接的に来ている単語も含まれますが、重要なものもありますね。データ、アイテム、フォーミュラ、カレンダー、フォーラム、キャンパス、ヒーロー、ボーナス、ウィルス、エトセトラ、アドリブやアドホックなどに加え、バーサスversus (○○ vs.○○)なども、最近では対戦相手を示すときに日本語で普通に使います。パラドックスやパラダイム、パラレル等、ギリシャ語に起源を持つ言葉も少なくありません。

 フランス語でもオランダ語でも、またドイツ語やポルトガル語やその他でも、英語以外で、どれほど広範囲に外国語が入り込んでいるかと認識することは大事です。強調したいのは、上に30個の英単語を上げましたが、それに付随してその数倍の単語を習得することは比較的、簡単だという事実です。フランス語でもドイツ語でも、第二外国語を学び始める時に、すでに日本語に入っていて知っている単語を突破口にするという教育手法が注目されています。
 すでに誰でも知っている単語から、その数倍の語彙力をいとも簡単に獲得できるからです。 (続く)



タイトル 『目から鱗! 気分を変えて英語に向き合う処方箋!』           ~ 理想や虚像に幻惑されないで、足元から着実に ~ 

千葉大学教授 小川秀樹 (国際社会論・グローバル人材論)

1956年生まれ。79年、早稲田大学政経学部卒業、ベルギー政府給費でルーヴァン大学留学。国連ESCAP(バンコク)、在イスラエル日本大使館勤務等を経て、横浜国大大学院博士課程修了。岡山大学教授等を経て、2016年より現職。

 著書に『ベトナムのことが3時間でわかる本』(明日香出版社)、『あなたも国際貢献の主役になれる』(日経新聞社)、『ベルギーを知るための52章』(明石書店)、『学術研究者になるには 人文社会系』(ぺりかん社)、『国際学入門マテリアルズ』(岡山大出版会)等、多数。



 英語って、それでいいんだ!? 
        英語って、言ったもの勝ち?どうとでもなる言語?

 さて次に、英語の素性に関わるお話です。後で少し詳しく触れますが、英語はもともとは北ドイツ方面のゲルマン語が、大陸を離れブリテン島に渡り、その後、多くの言葉と混ざり合い、影響しあった結果、出来上がった混成語です。 
 もっとどぎつく言えば、ゲルマン語がさんざん凌辱された、なれの果てとも考えられます。本来的に簡略共通語のような色彩を帯びていて、それゆえ合成語や新語・借入語に寛容です。つまり歴史が古く、ガチガチに固まった言語ではなく、通じれば良しとする便利な言葉なのです。

 そうした英語の特性である、考えすぎないで、「言った方が勝ち」という典型例を以下、示しましょう。

 最近では良く聞きますが、「Long time no see!」(お久しぶり!)って、文法的にも変な英語だと思いませんか?こうした一風変わった英語を使うのを躊躇うネイティブスピーカーも大勢います。何故なのでしょう?それはもともと中国人が使った変な(?)英語がそのまま英語に定着したからなのです。中国人は、「好久不見(没見とも)」と言うつもりで、そのまま単語を英語に置き換えただけですね(「好」は中国語では多いという意味)。でも中国英語が本物の英語の中に堂々と進出、定着したわけで、それはそれで良いのです。

 もちろんこの機会に、より本来の綺麗な英語らしい表現も知っておいて悪くはないですね。It's (It has) been a while! とか It's been a long time! と言う方が、英語らしいと言えば英語らしいです。どちらも後ろに続くsince we last met が省略された形です。We haven't seen you lately! などとも言えます。さらにはもっとシンプルに、Good (Glad) to see you again! と言うことももちろん可能です。
 でもいずれにしても Long time no see のような、ちょっと変な英語も取り込んでしまう度量の広さが、英語にはあるということです。

 次に、今度は日本語のある表現の英訳ですが、「先着順」というのを英語で説明しようと思っても、単語を知らなくて頭が真っ白に・・・となる人は多いでしょう。でもそこで頭が真っ白になるのではなく、こう考えましょう。「さて「先着順」という日本語すら知らない日本の子供に、どう説明しようか?」そしてそれをゆっくりと子供のように一語ずつ中学英語(いや、小学校英語??)で口に出してみませんか?要するに「先に来た人が、先に得る(貰う)」と。難しく考えないで、最もシンプルに。「えーと、First come, First 何とか」。そう、それでいいのです。
 後段を「First get」と不正確に言ったところで、相手は理解してくれます。
 いや、「First come, ・・・ 」と言い出したところで、相手はすでに分かっています。もちろん「First-come-first-served basis」と完璧に言えればそれに越したことはありませんが・・・。要するに英語は、子供のような素直な気持ちで、簡単な単語でとにかく言い出せば、何とか形になる便利な言葉なのです。
 正しい語順とかイントネーションなどというのは、またその後の問題です。


英語も日本語のセンス次第?

 ちょっと真面目な文章を読んでいて、「Conservative estimate」という単語に出くわしました。Conservative や estimate という単語をそれぞれ知っていて、その意味がすぐに思いつく人はすでに上出来です。社会系の人なら、政治の世界では保守党と言う場合に、Conservative Party と言うことをご存知の人も多いでしょう。でも保守党を思いつかず、そんな単語があったなあ・・何だったけなあ・・でも良いのです。その場合は、辞書を引くのでなく、想像力を巡らせましょう。
 発音からして「コンサバ」という、すでに日本語になった言葉に似ています。
 では「コンサバ」って何でしょうか。ファッションなどで、コンサバなスタイルとか使いますね。辞書的に言うと、「保守的な」ということです。トラディショナル(トラッド)とかオールドファッションとも近いかと思います。Estimate は、「見積もり」と考えましょう。

 すると Conservative estimate は辞書的には「保守的な見積もり」となりますが、その訳では日本語として馴染まず、ちょっと変ですね。ではどうすればいいか。言い換えて「控えめな見積もり」とすれば、しっくりきます。「コンサバ」から conservative の意味を類推したり、「保守的な」から「控え目な」と言い換えるセンスは、英語力というより日本語力です。そうです、英語力は日本語力に大きく関わってくるのです。

 Conservative が分かったついでに、類語も少し見ておきましょうか。基本形はConserve で、保存・保護する、維持するという動詞です。ラテン語、フランス語を経て英語に入っています。名詞になると、Conservation となり、保存・維持という意味になります。歴史的建築物の保存とか修復とかという意味でよく使います。しばらく前に東京駅が大工事を経て、戦前の三階建ての姿に戻されました。それが修復ということです。他の名詞形として Conservator は保存者、管理者であり、形容詞が Conservatoryで、保存上の・管理者のという意味になります。でもこの最後の形容詞形は、同時にフランス語のコンセルバトワール conservatoire という音楽(芸術)学校と同じ意味になります。何と「コンサバ」「修復」「音楽学校」がここで一本に繋がったのです。要するに古い考え方や伝統、技能を守っていくのが、保守的ということなのでしょう。

 さて次の事例は、新聞や雑誌のページの上の部分や右辺り、さらに下の部分に小さい写真が4,5枚、掲載してあると想像して下さい。そして写真の説明(キャプションと英語(caption)で言います)が、一枚ごと、それぞれの写真の下側にあるのでなくて、ページの文末にまとめて書いてあったとします。その説明の冒頭で、Clock-wise という単語が出てきました。さあ、これは何のことでしょう?

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写真が Clock-wiseって、どういうこと???

 クロックとは時計ですね。これはもう日本語になっています。時計が分かったら、このキャプション中の clock-wise も分かったも同然です。「写真は左上から時計回りに・・」と言う場合の「時計回り」ということです。こうして、仮に初めて見た英語の言い回しでも、状況から考えれば自然と分かってきますね。

 ここで wise の使い方が出てきたついでに、likewise(同様に)、sun-wise(太陽と一緒の方向に)、Time-wise(時間的には)、Money-wise(お金的には)、budget-wise(予算的には)、cross-wise(十文字に)とかも一緒に知っておきましょう。いつでも使えそうな、日常生活で使い勝手の良い表現ですね。これくらいはわざわざ覚えるというまでもないでしょう。 Wise ということでは、Otherwise(そうでないなら、そうでないと)という単語があり、「You should go now, otherwise you may lose that chance.」(すぐ行きなさい、じゃないと、そのチャンスを失うかもね)と使えます。さらにはお堅い法律的な表現ですが、unless otherwise specified(provided for(他に特約が無い限り)という表現があり、契約など文語的な表現ですが、日常的にも結構使えます。これだけでも、あなたは「wise」がついた単語は、語彙的には(vocabulary-wise)十分詳しくなったはずです。

 ところで皆さんは有名なマット・デイモン主役の人気のハリウッド映画「Jason Bourne」シリーズをご存知でしょうか。「The Bourne Identity」、「The Bourne Supremacy」、「The Bourne Ultimatum」、「The Bourne Legacy」、「Jason Bourne」の五部作です。Bourne の後に続く単語だけでも並べてみれば勉強になりますね。それぞれ、identity アイデンティティ、supremacy 至高性、ultimatum 最後通牒、legacy 伝説と言う意味です。

 マット・デイモン演じるジェーソン・ボーンがCIA(中央情報局、ただし英語ではCentral Intelligence Agency)から人間兵器に仕立て上げられて(その間の記憶は抹消されている)、政治的な暗殺等、汚い仕事に就かされるわけですが、そのうちジェーソン・ボーンが自分がこんな仕事をさせられている経緯を知りたくて、訓練を受けた研究所に戻るというシーンがあります。その時、CIAの側では、この極秘の人間兵器計画が発覚するのを恐れ、ジェーソン・ボーンの記憶を辿る試みを阻止しようとします。ジェーソン・ボーンはまさにCIAにとって危険人物となったかに思えたわけですが、いや、まだ完全に敵となったわけではないとCIA内部で議論が戦わされます。そうしたなか、CIA長官が、「ジェーソン・ボーンを、そうではないと証明されるまではuntil otherwise proved)危険人物とみなす」と発言します。私などはその場面、見とれて(聞き惚れて)しまいましたが、もともと賢いという意味の wise は、その応用編を知っておけば、まさに賢く、かつ格好良く使えるものですね。 (続く)



タイトル 『目から鱗! 気分を変えて英語に向き合う処方箋!』         
 ~ 理想や虚像に幻惑されないで、足元から着実に ~ 

千葉大学教授 小川秀樹 (国際社会論・グローバル人材論)

1956年生まれ。79年、早稲田大学政経学部卒業、ベルギー政府給費でルーヴァン大学留学。国連ESCAP(バンコク)、在イスラエル日本大使館勤務等を経て、横浜国大大学院博士課程修了。岡山大学教授等を経て、2016年より現職。

 著書に『ベトナムのことが3時間でわかる本』(明日香出版社)、『あなたも国際貢献の主役になれる』(日経新聞社)、『ベルギーを知るための52章』(明石書店)、『学術研究者になるには 人文社会系』(ぺりかん社)、『国際学入門マテリアルズ』(岡山大出版会)等、多数。



 英語センス判定クイズ:何語でも想像力次第で誰でも分る?

 私は大学で自分のゼミへの加入者を選別する時、しばしば英語のクイズを出して、その人の英語のセンス、適性をチェックします。TOEICなどのスコアで示される今の英語力がどのくらいかは別として(つまり有体に言えば、その段階でTOEICの点数が低くても)、将来性を考えた場合に、英語能力の伸びはセンス次第、それに日本語力、想像力の勝負だと確信していましたから。
 まずは一つの例を示しましょう。世界のどこかの街を歩いていて、建物に次のような看板を見ました。

「Banco Nacional Ultramarinoって何?
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Banco Nacional Ultramarino
分かるはずが無い??

 英語でもない(なさそうな)横文字、分るはずがないとあなたは初めから諦めますか?でも諦めたらそれっきりです。何とか手がかりを探してみましょう。
 ここで想像力の出番です。英語とはスペルが違いますが、「バンコ」という発音に一番近い英単語は誰でも知っている「バンク」ですね。「ナショナル」は、これもスペルが英語とは微妙に違いますが、でも同じものだろうと察しはつきます。「民族」とか「国立」とかの意味です。ナショナル・ミュージアムは国立博物館ですね。となるとそこまでは「国立銀行」という意味だろうと察しをつけます。
 最後の難問は「ウルトラマリノ」です。しかしこの言葉、容易に二つに分離できます。「ウルトラ」と「マリノ」。ウルトラと言う言葉、これは日本語になっていて、「超」とかのイメージは誰でも浮かぶでしょう。でも「超」以外のイメージもあります。例として「紫外線」という英語を考えましょう。紫外線カットはUVカットです。
 紫外線は文字通り、Ultra(外) Violet (紫) Rays(線)と言うのです。つまり、この場合、「Ultra」は「外」という意味を持つわけです。「marino」は、日本語でも、マリンスポーツ、葉山マリーナ、横浜マリノス等々、似通った言葉が脳裏に浮かびます。どれも海に関係しています。つまり Ultra(外)marino(海) ⇒「外・海」⇒「海外」ということなのです。そう、正解は「国立海外銀行」(ポルトガル語)というわけです。英語でなくてもじっと想像すれば何となく分かると言った意味がお分かりでしょうか?

 ついでに加えると、今、ロンドンに行く人で英国航空(British Airways: 略してBA)に乗る人も多いでしょう。古い人ならご存じでしょうけど、その昔、BAはBOACと呼ばれていました。British Overseas Airways Corporationの略です。
 英国海外航空と日本語では言っていました。この「Overseas」と上記の「ultramarino」は、同じものだと分かります。どちらも「海を超える」という意味ですから。

 もう一つ、想像力テストです。次の一塊の単語、全体で何という意味なのでしょう?

The morning after the night before.

 文字通り訳してみれば、「前の夜の次の朝」ということで、何の変哲もない、意味不明の表現に思えますが、何となく勘でお分かりでしょうか?もっと気軽にMorning afterだけでも使えます。ここも想像力の出番です。実は何のことはない、「二日酔い」ということです。要するに「しこたま飲んだ晩の次の朝」というわけです。こういう表現を見ていると、英語って自由だなと思えてきませんか。
 楽しくもあります。単語力ではなく、想像力と言った理由がお分かりでしょう。
 
ついでに二日酔いと言えば、hangoverという、そのものずばりの単語もありますから、是非覚えておいて使ってみましょう。

 さて最後にもう一つ、ちょっと難しい、英語センスチェックの事例を。
 例えばあなたがアフリカの某国の経済状況を調べようと、図書なりネットなりで、GDPやらGDP per capita(一人当たりの国民所得)、人口動態、乳幼児死亡率、平均寿命、貿易収支等々、いろんな国全体の指標や数値を調べていたとします。そのカントリーレポートの最後に注釈が書いてありました。
 下記の通りです。

Figures may vary depending on sources.

 さて、これはいったい何を意味するのでしょう。これは上級編で、かなり難しいです。

 Figuresは、もちろんフィギュアで、スケートや玩具のフィギュアが頭に浮かぶかも知れませんが、こうした経済関係に関して使われると、それは普通、「数値」という意味で使われます。ナンバー(数)と近い意味です。Varyはmayの後ろにありますから、動詞として使われています。スペルから判断して、バリエーションとか、バラエティという似通った単語が想起されます。それでおおよその察しはつきましたか?さてDepending on ~は、~次第という意味です。「状況次第だよ」とか「成行き次第だよ」と言うときに「It depends!」とよく言います。
 最後のsourceは、これもソースとして日本語にほぼ定着している言葉ですね。「その情報のソースは確かか?」などと使われ、出所とか源ということで、情報源とかの意味もあります。A power sourceで電源、informed sourcesで消息筋、source bookで、歴史などの原典、史料、source languageで、翻訳される原典の言語と言う意味です。これもフランス語起源の単語です。
 なお料理に使うソースはフランス語(起源)の「Sauce」で、まったく別物ですから、ご用心。

 以上のように考えてくると、もうすでに意味が十分取れていると思います。
 「本報告で使用した数値は、情報源によっては変化・変動する(違った数値になる)ことがあります」という注釈ですね。勘の良い人なら、国によっては、経済データが不完全だったり、あえて不都合なデータが公表されなかったりと、いろんな不規則性があるし、政府の公式統計と国連やNPO等、外部の統計との間に乖離があることもしばしばなので、こうした注釈が必要なことにお気づきでしょう。

 最後に付け加えるなら、Figureという単語は、人物という意味でも用いられます。Mr. Ozawa is one of the most controversial figures in Japanese politics.(小沢氏は日本の政界では、最も毀誉褒貶(きよほうへん)の激しい(議論の分かれる)政治家の一人だ)という具合に。 (続く)



タイトル 『目から鱗! 気分を変えて英語に向き合う処方箋!』     

    ~ 理想や虚像に幻惑されないで、足元から着実に ~ 

千葉大学教授 小川秀樹 (国際社会論・グローバル人材論)

1956年生まれ。79年、早稲田大学政経学部卒業、ベルギー政府給費でルーヴァン大学留学。国連ESCAP(バンコク)、在イスラエル日本大使館勤務等を経て、横浜国大大学院博士課程修了。岡山大学教授等を経て、2016年より現職。

 著書に『ベトナムのことが3時間でわかる本』(明日香出版社)、『あなたも国際貢献の主役になれる』(日経新聞社)、『ベルギーを知るための52章』(明石書店)、『学術研究者になるには 人文社会系』(ぺりかん社)、『国際学入門マテリアルズ』(岡山大出版会)等、多数。



       ~ 理想や虚像に幻惑されないで、足元から着実に ~

はじめに
 本連載は、日本人の多くが共有している思い、つまり英語は立派な言葉で、大事な学科でもあるという意識を捨て去り、たかが英語なのだから、構えることなく気軽に使ってみましょうという考え方をお伝えすることを目的とします。
 ですから英語の文章やボキャブラリーにいっぱい触れ、英語そのものを勉強したい方や、英語が大好きな人に向けた連載では本来的にはありません。
 むしろ何かの事情で英語を疎遠に感じ、気後れを感じてきた方にこそ読んでいただきたい内容になっています。むしろそういった方の、「英語に関する心のケア」を行うための処方箋という内容なのです。

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 筆者自身、中学校で英語を始めたばかりで、まだ Tom と Susie しか英語の名前を知らない時、試験で、まだ教科書にも出てこない名前 George が読めなくて、ゲオルゲとか書いて0点と採点されました。それ以降、中学では結局、英語は嫌いなままでした。あの時の先生が、「ドイツとか北欧とか、国よっては、ゲオルゲみたいな発音するかも知れないけど、英語ではジョージと発音するのです。残念だったね」とでも言われていれば、筆者の英語への気持ちも変わっていたかも知れません。あるいは、monotonous(単調な)などという卒倒しそうな単語を、頭ごなしで覚えなさいと言われるのでなく、「モノトーン」という語源まで遡って教えてくれる先生がいたなら(モノレール monorail やモノクロ monochrome も引き合いに出して)、英語が最初から好きになったかも知れませんね。

 しかしその後、高校時代で国際的なものに目覚めて、何とか英語の成績も盛り返し、大学受験の頃は大得意になっていました。大学で国際関係学を専攻、卒業後も自分で英語の研鑽は続け、四半世紀ほどの間は世界各地の国際的な舞台で仕事をし、その後15年ほどは日本の大学で学生のグローバル教育に従事してきました。その過程で、英語が大好き、大得意ではない大勢の日本の大学生とどう向き合うかという問題に常に直面してきました。
 本連載では、今から英語に関して、自分自身が世界での経験から得たものと、大学での教育から得た経験の両方を、余すことなく、この連載のなかで紹介したいと思います。

 それは結論から言うと、「ネイティブスピーカーのような英語」という理想像に向かって英語を学ぶのではなく、もっと自然体で自分の身の回りから出発して、英語に向き合うこと、さらには逆説的ではありますが、学校英語への決別ということに凝縮されるかも知れません。別の言い方をするなら、自分に必要な範囲で英語を話して聞き、読み書き出来ればまずは上出来であり、身分相応の英語から始めましょうということなのです。

 大学教育の現場でも、そうした流れは顕著で、いまやどの大学でもイングリッシュ・カフェなどと呼ばれるインフォーマルで、アクティブ(ソーシャル)ラーニング的な場を設けています。あるいはスカイプを用いて、例えばフィリピン人と英語の会話を楽しむということも日常茶飯事になってきました。
 要するに「習うより慣れろ」ということなのです。 (続く)

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千葉大学のイングリッシュ・ハウス



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