「できる!」ビジネスマンの雑学
2019年01月25日
[639]猪年に読む一冊『飼い喰い―三匹の豚とわたし』(内澤旬子)

 今年が猪年というわけではありませんが、正月休みに『飼い喰い―三匹の豚とわたし』(内澤旬子/岩波書店)を読みました。

 飼い喰い---小学生がこっそりやっている「買い食い」ではありません。飼う、つまり家畜を自ら飼育して、屠畜処理してのち食べる。

 人類が古来からやってきた食糧自給の基本です。

 この本は、食肉の基本に立ち帰ろうと、ひとりの女性が仔豚にエサをやり、食べ頃まで肥育させ、食肉にして食べるまでの過程を事細かに描いた異色ドキュメンタリーです。

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 著者はこの本の前に『世界屠畜紀行』(角川文庫)を書いており、畜産、屠畜、食肉に対して並々ならぬ情熱が感じられました。

 この著者なら「さもありなん」と思われます。ところが実は東京生まれ東京育ち、家畜を飼育した経験はゼロ。都会育ちの著者にはさまざまな困難が待ち受けていました。

 まず豚を飼う場所がなかなか見つかりません。数頭の豚を軒先で飼う牧歌的風景は1960年代で終わりを告げ、豚の飼育を検討し始めた2008年当時、すでに豚の畜産業は工場のような閉鎖空間で行うのが常識となっていました。給餌も排泄物処理も人手を最小限にしたオートメーション化により、国産豚肉の安定供給は成り立っていたのです。

 自分の手でエサをやり豚の顔を見ながら飼育したい。そう考える著者のスタイルは無残にも打ち砕かれました。

 それでも千葉県内に廃屋となった居酒屋を借り受け、豚の飼育許可も得ることができました。しかし、当然のようにそこには豚小屋がない。プロの養豚家のみなさんがおもしろがって手伝ってくれたこともあり、三頭の豚を飼えるだけの小屋を手作りで用意しました。

 さて、いよいよ飼育の始まりです。著者は手に入れた豚三頭に名前をつけます。養豚家たちはその行為に戸惑い、家畜を名前で呼ぶのはやめるよう説得する人まで現れます。このあたりは著者独特の感性かもしれません。

 NHKの番組で日本犬のルーツを調べて東南アジアを調査するドキュメンタリー番組がありました。そこで必ずたずねていたのが、飼育している犬を食べるのか、ということでした。

 家畜とペットの線引き、名前と食肉の関係性は、実はとても奥が深い文化的テーマのようですが、残念ながらこの本ではそこまでの踏み込みはありませんでした。

 それはさておき、食べることを前提とした豚を飼育するおもしろさ、苦労、発見はこの本の醍醐味です。興味を持たれた方はぜひご一読ください。(水田享介)

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