「できる!」ビジネスマンの雑学
2022年07月29日
[714]奈良時代の役人が愛用したアンチョコ、見つかる

 奈良時代と言えば、いまから1300年ほど前の古代。そんな遠い昔にも、日本には天皇を中心とした政権があり、当たり前のことですが今の省庁や県庁にあたる役所が日本各地にありました。
 京都府京丹後市にある奈良時代の遺跡から、当時の役人が使っていたらしい、とある「アンチョコ」がこのたび出土したそうです。

 奈良時代の役人のアンチョコとは、どんなものだったのでしょうか。

奈良時代の「九九」早見表、木簡が出土...役所で使用か
「字が丁寧で計算間違いもない」
 かけ算の「九九」の式35個を記した奈良時代の木簡が、京都府京丹後市の●尾遺跡(8世紀)から出土した。九九木簡は全国で約80例見つかっているが、一つの木簡に書かれた式は15個以下で、今回が最多という。※●は「雨かんむり」に「鶴」
読売新聞オンライン 2022年7月26日掲出)

 木簡(もっかん)とは、板に文字を書いたもの。当時の日本では紙がまだ高価だったため、木簡も盛んに利用されていました。

 役所内で回覧する通達はもとより、タイムカードなどの勤務記録から給与明細、果ては欠勤届まで出土しています。また、租税として全国から集められた物産品の荷札にも多く使われていました。

220729.jpg
※写真は木簡ふせん・長屋親王宮に届いたアワビの荷札木簡/350円(税込)
 平城京跡資料館にて販売中


 さて、九九が書き記された木簡ですが、税として集まった物品の数量計算のため、役人が九九の早見表として利用していたと推測されています。

 筆者だけかもしれませんが、小学生の必修科目、九九の暗記はとても大変でした。計算に弱い筆者は両手を総動員して、なんとか算数の授業について行った記憶があります。

 そんな苦労を千年以上昔の人もしていて、懐に九九早見表を忍ばせていたのでしょうか。山と積まれた物産品を前に上司に全部でいくつあるのか、と問われて即答できなければ下級役人は務まりません。でも、計算に弱い自分が奈良時代のここにいるとしたら・・・。電卓もスマホもないし。
 そうだ、九九の暗算ができないなら、計算結果を書き留めておけばいいじゃないか。

 きまじめで丁寧な筆致で書き残された九九には、役人の生きる知恵、気苦労、努力の痕をうかがい知ることができます。

 木簡を読み解くことで、役所勤めの古代人の気苦労まで知るとは、思ってもいませんでした。

 最後に「アンチョコ」は昭和時代の死語だそうです。アンチョコとは解答をすばやく見つけるための備忘録や参考書。由来は安直から。虎の巻ともいう。あぁ、そんなのなくてもスマホで事足りますね。

 昭和の時代も、奈良時代にかなり近くなりました。(水田享介)

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■木簡についての参考資料

WEBでひらく木簡の世界「木簡庫」

平城京跡資料館
~ダウンロードコンテンツ・地下の正倉院展~

木簡をさぐる-古代が見える
高松市図書館蔵-小学生の本格的木簡研究 2017年7月

「平城京に暮らす 天平びとの泣き笑い (歴史文化ライブラリー)」
(馬場基:著/出版社:吉川弘文館/発行年月:2010年02月)

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