普通の本屋を続けるために
2023年02月20日
第1回・キックオフ 〜本屋の現状と生産性向上〜

初めまして皆さん、中内義人と申します。
この度、株式会社長崎書店の長﨑健一社長、久禮書店の久禮亮太さんに紹介いただき、勇気を以て筆をとっております。どうぞよろしくお願い致します。

なぜこのような機会をいただけたのか、そこからお話をさせていただこうかと思います。
私はふだん「店頭作業の生産性を上げよう」という取組みを、
自社ならびに他の書店の皆さんと一緒に取り組ませてもらっております。
今回紹介させていただくのは、生産性向上の取組みです。

第1回目は「キックオフ」とも言うべく、この取組みの始まりをお伝えしたいと思います。


【1】クエスチョンからのスタート

6年前、自社において、プロジェクト方式による改善活動がスタートしました。
当時は店長として仕事をしていたのですが、本社から近いということもあり、プロジェクトリーダーを任されました。
当時を振り返ると、「生産性?はて?」という状態です。
どこに問題があるのか、そもそも問題とはなのか、マニュアルにするのか、と頭の中はクエスチョンだらけでした。

上司から渡されたプロジェクトシートには「ゴールイメージ」がこのように記載されておりました。

1.最も効率のよい作業手順と必要時間がマニュアル化され、作業時間が適正化されている
2.CS向上と生産性向上が両立している
3.全社的な "カイゼン活動" が継続する取り組みがスタートしている

「マニュアル化」出来るの?するの?
あっ、「カイゼン」トヨタか?またクエスチョン。
さらに「課題」の欄には、、、

1.作業分析に基づく作業標準策定
2.マニュアル化および水平展開計画策定
3.システムの徹底活用
4.店舗生産性向上の全社的取り組み "生産性向上活動(仮称)"の立ち上げ

クエスチョン、クエスチョン、クエスチョンだらけです。
でも「Question has been answered」ってアイバーソン(NBAプレイヤー)も言っていたし、楽しそうだからやってみよう。
前向きというよりは、好奇心で始まった取組みでした。


【2】プロジェクトチーム

リーダーの僕とメンバー2名、合わせて3人でのスタートでした。
2人は年上&ベテランで、僕が本の担当社員の時の店長。
最高に気まずいスタートです。

2人には熟達したノウハウ、熟練ならではの気づきを提示してもらう。
形を作り、報告するのは僕。
という役割分担のもと、お酒を酌み交わしながらチームを形成していきました。

不思議なもので、提示された課題を調査していくと
「このポイントがムダだ」
「ここはもっと楽に出来る」
という同じ視点や問題意識が共有できました。

そのほかにも
・店舗ごとの作業の比較
・「本屋あるある」の共有
などを通して、新しい挑戦は前向きなものに変わっていきました。
これが、今につながっています。


【3】店頭作業調査

当初のプロジェクトシートに書かれていた「作業分析に基づく作業標準策定」って、何でしょう?
作業といえば「品出し」「返品」しか思い浮かびませんでした。
ここからスタートし試行錯誤の結果、作業を分析する調査フォーマットの項目は40にもなりました。

調査では開店前の作業を、紙とペンを持ってただひたすら観察し、記録しました。
そして
「同じ作業でもA店ではこのように作業をしている」
B店ではこのぐらい時間をかけている」
ということがわかります。
その比較の中で、ベストな手順と時間を決めていきました。

また、店頭作業の調査を通じ
「現場ではスタッフの皆さんの工夫が積み上げられている」ということが分かりました。
次に、この積み上げられた工夫が本取組みの加速度をあげた事例をお伝えします。


【4】雑誌の付録つけ作業

雑誌の付録つけは、どこの本屋でもやっている作業ですよね。

とあるお店に調査に行った時の話です。
「〇〇さんが付録付けをやると3倍速いです」と教えてくれたスタッフがいました。
作業を観察し、ストップウォッチで時間を計測させてもらうと確かに速い。
さらに、私のプロジェクトチームのメンバー(ベテラン)よりも速いこともわかりました。
とにかく手の動きが速いのです、輪ゴムの持ち方から配置の仕方、ブックトラックでやっているなど、、、
「〇〇さん、付録の付け方がスマート!教えてください!手元だけ動画を撮らせてください!」
と、思わず猛アプローチしてしまいました。

本人は「そんなことないですよ~」と言っていましたが、あれは凄かった。
最終的に、それを文字と写真に起こして作業標準を定めました。

そのお店では「3倍速い」という作業の手順が互いに共有されないまま付録つけ作業が行われていました。
この作業をマニュアル化しトレーニングすることが、生産性向上への大きな転換期になったと思っています。
皆さんのお店にもいますよ、3倍速いスタッフさん。必ず。


【5】店頭作業生産性向上の始まり

こんなかたちで、生産性向上プロジェクトは始まりました。
題目と役割を決めて、わからないながら始めてみることが改善の第一歩でした。
さらに、作業のモニタリングの大切さも痛感しました。
「知っている」「やってきた」作業にも関わらず新たな気づきがとても多く、その発見が新鮮でした。

本屋の朝は「鬼気迫る」「殺気立つ」そんな表現でも足りないくらいたいへん重要な時間。
でも皆さん、勇気をもって作業を観察してみてください。
お店の皆さんの積み上げてきた工夫がゴロゴロころがっていますよ。



【著者紹介】

中内 義人(なかうち・よしと)

198053日 ゴミの日生まれの40
妻、娘、息子の4人家族 
好きな色はオレンジ 好きな番号は28
好きなスポーツは バスケ、サッカー 丸いがボールではない

東京の書店でアルバイトをスタートし、地元である茨城に帰ってきてブックエースに入社しました。おおよそ20年、本屋で働いています。
複合書店であるブックエースに入社後、本の担当社員を経験し、川又書店の店長を経て、業務改善推進室に異動となりました。
店舗の店長最終年、今から6年前に本の生産性向上のプロジェクトリーダーを任命され、店頭作業の生産性をあげるべく取り組んできました。
非常に貴重な機会をいただきまして、4年前から他企業の書店様と一緒に仕事をさせていただき、自社のノウハウを提供しております。

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