「できる!」ビジネスマンの雑学
2015年05月18日
[052]新人だった頃、教えられたこと-人に疲れたら

 筆者は人付き合いはあまり得意ではなく、大学での友人もせいぜい10人程度に限られていました。就職後は一転、とある企業のセールスプロモーション部に配属となると、全国各地の営業マンを後方から支援する業務を命じられました。営業マンは数千人はいたと記憶します。

 1980年代の通信手段は丸いダイヤルを指で回す式の黒電話1本やり。一対一のコミュニケーションですから、朝から晩までとにかく電話に追われていました。いまならPCがバックグラウンドでやってくれるメールで済む話です。それと同じ業務を、かつては電話音声だけで情報をやりとりし、就業時間のほとんどを費やしていました。

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 昔を知らない方は「なんと非効率な」と思われるかもしれませんが、手っ取り早い通信手段はこれしかなかったのです。だから仕事の長電話を疑問に思う人はいませんでした。 電話のベルが鳴り止むのはだいたい就業時間を過ぎてから。自分の仕事を処理できるのは、夜6時から深夜となります。従って毎晩残業でした。
 ただ受けられる電話の本数で自分の仕事量が決まりますから、黒電話がオーバーワークを防いでくれていたのかもしれません。いえ、やっぱり新人にはオーバーワーク気味だったようです。

 次第に疲れがたまってきました。頭がいつもしびれた感じになり、時間の感覚が鈍くなりました。気がつくと、もう終電ということが度重なりました。ものを食べても胃が痛むようになり、名刺の束を繰りながら思いました。「人に会いすぎている。これ以上は耐えられないかも」

 困ったときの頼みの綱、トップセールスマンの叔父さんに会って悩みを打ち明けることにしました。叔父さんは毎日一台は新車を売っていると言われる売り上手のカーディーラー経営者です。
 際限なく仕事の相手が増え続けること、またはその逆について。
  おじさん曰く:「クルマを買い換えるときに2割から3割の客は離れていく。縁がなかったんだ。縁のない人を追いかけず、新しい出会いを開拓するんだよ」
 人と会うのが苦手です。
  おじさん曰く:「ちゃんとメシを食べてるか。メシを腹いっぱい食べてから、人には会うものだ。ネクタイを締める前に、メシを食べろ」

 奇妙なアドバイスを受けて、とりあえず実行したのは残業前に、しっかりと晩ご飯を食べること。上司からは「残業時間中にメシに出掛けるな、時間がもったいない」と言われ続けましたが、腹が減っては・・・といいつつ、食事に時間とお金をかけるようにしました。次に上司の指示通りに動くだけでなく、自分なりに仕事の目標をたてました。自社商品の見積りをプログラム化することにして、残業時間をプログラム言語の習得にあてました。リレーショナルデータベースを独習で身につけて、自分の売り上げの実績と予測を月次報告できるようになりました。

 周囲を見回す余裕ができると、コピーライターという職業があることを知りました。ボーナスをはたいて、コピーライター養成学校の通信コースを受講しました。当時のコンピュータ広告はとても難解でしたので、この職に就く可能性に賭けることにしたのです。本当は教室に通いたかったのですが、定時退社はあり得ないことでした。ひとり孤独な勉強でした。
 残業の多い職場で、学習時間を作るのは難しいことでしたが、技能を身につけないと将来の自分が危ういと思い、コンピュータと広告に自分の未来を託して必死でした。そして、その結果は・・・。
 この後のことは、また日を改めて。

 いま、コンピュータはスマホに置き換わったようです。指を滑らせるだけで直感的に操作できるスマホは、楽して覚えるもの。取説すらなく必死になって勉強するものではありません。コンピュータも同じような存在になりつつあります。便利にはなりましたが、若い人たちにとって、スマホもコンピュータも将来の自分を思い描く対象にはならないでしょうね。
 
 便利です、スマートに時短してくれる情報機器です。若者の生活は充足しているようです。しかし、私たちは今や「未来を夢見させてくれる程ではない製品やサービス」に囲まれてしまいました。杞憂かもしれませんが、どうでもいい便利さと引き替えに、若者から夢見る力が失われてしまわないか心配です。
 はたしていつまで、このようなツールが使われるのでしょうか。Siriに尋ねたくなる今日この頃です。(水)

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