「できる!」ビジネスマンの雑学
2018年01月15日
[492]名もなき家事を顕在化する「家事年収シミュレーター」とは

 住建メーカーの大和ハウスが、暮らし方を見つめ直すツールとして「家事年収シミュレーター」をウェブサイトで公開しています。

「家事年収シミュレーター」(大和ハウス工業 公式サイト)
http://www.daiwahouse.co.jp/jutaku/lifestyle/kajishare/simulator.html

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※大和ハウス工業 ウェブサイトより引用

 使い方はいたって簡単。スタートボタンを押して、質問に対して自分が家事に費やしている時間(一週間分)を答えていくだけです。

 このシミュレーターの別名が《「名もなき家事」を含めた家事年収》とありますから、見過ごされがちな小さな家事にも労働対価を与えて顕在化することが目的のようです。

 特に、切れた洗剤を買い足す、不要なチラシを捨てる、といったこまごまとした「家事」は、

《夫が家事と認識していない家事が存在》

すると、男性の耳には痛い指摘があります。

 おそらく、このシミュレーターは男性のみなさんに家事の大変さを気付かせることが狙いかもしれません。

 確かに質問の多くからは、女性の皆さんのがんばりと奉仕の精神で家がきれいに維持されていること、だからこそ家族が健康でいられること、など気付かされることがいくつもあります。

 ですから、このシミュレーターで示された金額の多寡に一喜一憂するのではなく、女性の側にだけ家事をまかせていなかったか、男性の皆さんが家庭での自分を振り返るいい機会かもしれません。

 しかし振り返って反省しているだけでは、何も好転はしません。

 このシミュレーターには家事への提案も用意されています。

「家事シェアハウス」(大和ハウス工業 公式サイト)
http://www.daiwahouse.co.jp/jutaku/lifestyle/kajishare/index.html

2018011502.jpg
※大和ハウス工業 ウェブサイトより引用

 住宅メーカーですから、家の新築・建て替え・改築も解決策のひとつとしています。
 しかし、それだけではありません。家族がお互いに気にかける、気を配る、おもいやることで解決する糸口があることを示しています。

  ◇

 一方で、筆者のような男性目線から見ると、これだけで家庭が維持できるのかな、という疑問も感じました。

 皆さんはご存じでしょうか。かつては「男手」という存在がとても大切にされていたことを。

 男手とはまさに字の通り。男性だからできること、男性が活躍するとっておきのシーンが、昔の家庭にはありました。

 たとえば、ガスも電気もなかったころは、薪割りや水汲み、煙突掃除は男の家事でした。
 電化生活となった今でも、庭木の剪定、水路の整備、屋根や雨戸といった家屋修理・・・などの雑事は、男手を当てにされます。いわゆる技術を伴う力仕事といえばいいのでしょうか。

 こういった男手がこの家事年収シミュレーターからはすっぽりと抜け落ちてはいないでしょうか。

 また、働いている男性は仕事で培った技能を備えています。こうしたプロの技術が身近にあることは、家庭にとって貴重な資産です。

 筆者で言えば、家で使うパソコンやネットワークの整備、家電品の調達や修理、テレビアンテナの設置など、ショップに頼むとかなりの費用がかかるはずが、タダか格安で調達できます。

 自家用車がある家庭ではもし男性がドライバー役を務めているのなら、家族の送り迎えや休日のドライブ旅行のドライバーの分も、男性の家事年収に繰り込むべきだ、という意見もあながち間違ってはいないでしょう。

 家事を厳密に賃金化し始めると、このように男性と女性の対立にしかならないのでは、せっかくのシミュレーターというアイデアが良い方向に生かされませんね。困ったことです。

  ◇

 アメリカの有名な絵本画家、ターシャ・テューダーは、2008年に92歳で亡くなるまで80冊以上の本を出版しています。

 彼女はアメリカ開拓時代の生活にあこがれ、1950代後半からは電気やガス、水道などの設備を最小限にとどめ、ひとり暮らしながらスローライフを実践しました。IoTどころか家電製品のない生活は、まさに一日中が家事だらけ。

 では、自分一人で家事をこなしていたかというと、そうではありません。家具職人の息子に頼んで、200年前の家を再現させてそこに住み、あちこちに出かけては、見込みのありそうな若者をスカウトして家事や庭仕事を手伝ってもらっていました。その姿は実に楽しそうです。

「ターシャ・テューダーの森から~ひ孫たちの夏日記~」(NHK・BSプレミアム)
https://www.nhk.or.jp/docudocu/program/3665/2363290/index.html

 理想の生活のために周囲を巻き込み、能力ある人に頼んだり、お店や若者を育てていく。ターシャ・テューダーは家事を抱え込まずに、人々に分け与える人でした。

 ターシャ・テューダーの生涯を知るにつけ、家事とはマネジネント能力や協調性、育成力など、さまざまな要素を含んだ実に面白い仕事ではないかと筆者は思います。

「名もなき家事」は確かにあるのかもしれません。ただそれを見つけただけでは何ひとつ解決はしないでしょう。

 本当の家事シミュレーターを作るのは、本物のフライトシミュレーターを作るより大変なことかもしれませんね。(水)


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