「できる!」ビジネスマンの雑学
2022年08月17日
[722]東京都の太陽光発電設備を義務化と千年続くイランの風車

 今月8日、東京都が都内新築住宅に太陽光発電設備を義務化する方向へ大きく舵を切りました。

新築住宅の太陽光発電設備 "義務化へ条例改正を"都の審議会
東京都が検討を進める新築住宅の太陽光発電設備の設置義務化について、都の有識者でつくる審議会は「住宅を新築する機会を捉え、高い水準への誘導を促す制度を新たに構築すべきだ」として義務化に向けて条例改正を進めるべきとする意見を取りまとめました。
・・・
この制度は、去年9月の都議会で小池知事が「都の環境政策を新たなステージに押し上げる」として、温室効果ガスの排出量を2030年までに半減させる「カーボンハーフ」に向けた取り組みの一つとして明らかにしました。
NHK NEWSWEB 2022年8月8日掲出)

波紋呼ぶ、太陽光パネルの義務化案 それでも東京都が踏み込む理由
 案は、環境や建築が専門の研究者らでつくる都の環境審議会が5月に示した。「脱炭素社会」へパネル設置義務化が必要とする都の方針を受けて具体化したもので、都はこの案をもとに、秋以降、条例改正案を都議会に提出する構えだ。
朝日新聞デジタル 笠原真 2022年7月21日掲出)

22081501.jpg

 都の環境審議会がこの方針にお墨付きを与え、今年の秋には都議会での審議が始まる勢いです。
 脱炭素社会、カーボンゼロを提唱する方々が集まった環境審議会であれば、このような結論に至るのは当然でしょう。

 しかし、二酸化炭素排出を減らすためだけの目的で太陽光発電設備を都民に、しかも自己負担で強いるのはやりすぎではないでしょうか。また、都内住宅地に太陽光パネルを敷き詰めて、安全上に問題はないのでしょうか。

 筆者が思い浮かべるいくつかのリスクをあげてみましょう。

【耐久性と経済性に見積もりの甘さ】
 太陽光パネルの寿命を検索すると、日本製で25年から30年、中国製で10年足らずと出てきます。しかしそれはパネル本体だけの推定寿命です。わかりやすく例えるなら、ノートパソコンの寿命を聞かれたとして、「液晶パネルは割れなければ長持ちするから、パソコンは10年でも20年でももちますよ」と返事するようなもの。
 ノートパソコンの寿命は液晶モニターだけで決まるわけではなく、基板の寿命、ハードディスクやSSDの寿命、OSやアプリの使用期限、冷却ファン寿命、バッテリー寿命など、いずれかの最短寿命が、ノートパソコンの寿命になることは、誰もが知っています。

 実は太陽光発電設備の寿命も、だいたいそれと同じ理屈で成り立っています。

 発電設備は太陽光パネルだけではなく、発電した電気を家電で使ったり、バッテリー蓄電や売電に至るまで、さまざまな電子機器が使われます。その設計やソフトウェア、パーツの耐久性能、果ては設置工事、メンテナンスによってシステム寿命は大きく左右されます。

 太陽光発電設備が義務化されると、設備需要は急増し、おそらく大部分は中国製になります。
 中国製パーツは不良品が出ることを前提に、ゆるい品質管理で造られています。不良品は交換すれば良いという発想です。だから安価で初期費用が抑えられます。しかし不良は交換すると言われても、基板に組み込まれたパーツは交換不可能です。
 ひとつの不良パーツで発電システムが誤動作を起こし、破損、発火、火災事故につながることもあり、事故の原因特定は困難です。

 筆者は今年、twitterで不良パーツによる火災事故の危険性を訴えたところ、ある方が太陽光パネルの出力数値だけを取り上げて、感電、火災は起こりえないと反論しました。設計図だけで議論すればそうなります。

22081503.jpg

 ところが、設計通りに製造した日本国内のメガソーラーでも、暴風雨、台風などにより、感電・火災事故は起きています。中国メーカーではコストダウンを優先しがちなため、図面とは違った中身の製品も往々にして納品されています。価格競争のため、性能チェックはまずしていません。

 中国国内では電動バイクが普及していますが、充電中に火災や爆発が発生して、マンション火災や駐輪場火災などの事故が頻発しています。なぜか日本ではほとんど報道してはいません。

 納品時に動いていればいい、壊れたら交換すればいいという思想の製品が、東京中の住宅にばらまかれたらどうなるでしょう。

【負の遺産を若者に押しつける】
 この法律は新築住宅に義務づけられるため、若者が将来、家を持つ時の大きな負担となるでしょう。政治や行政にまだ関心の薄い若者層をこのような規制で縛り付けて良いのでしょうか。

 筆者の見積もりですが、バッテリーは数年単位で交換が必要、システム管理機器は5~10年、太陽光パネルは性能を発揮するのは5年未満で10年以内に交換が妥当な寿命。十年単位でシステム全体を入れ変えないと、発電能力は維持できないと見込んでいます。また住宅の安全性も担保できません。

 わずかなカーボン排出を抑える代わりに、どの家庭も数十万~数百万円のリスクを負い続けるのは、得なのでしょうか。
 机上ではじくカーボン排出量の削減には見合わない出費となることでしょう。

【太陽光を電気に変える必要はあるのか】
 太陽の光は誰もが無償で得られるエネルギーです。高額な発電システムを使ってまで、なぜわずかな電気を蓄える必要があるのでしょうか。
 太陽熱で水は温まるし、温水を貯めておく保温タンクはバッテリーより安価で永く使えます。

 ナショナルジオグラフィックスチャンネルでは、千年続くイランの風車を紹介しています。これまでに何十世代の村人を、この風車は支えてきたのでしょうか。

22081502.jpg
See the 1,000-Year-Old Windmills Still in Use Today | National Geographic
National Geographic 2017年1月23日)
https://www.youtube.com/watch?v=3qqifEdqf5g

 21世紀の日本に住む私たちですが、千年前のイラン人の英知がまぶしく輝いて見えてきませんか。(水田享介)

コメントを書く
お名前
URL
コメント
書籍購入はこちら 語学音声アプリ 公開中 閉じる