日本では今年の初めから卵の小売り価格が急上昇しています。去年までひとパック（10個入り）が150～180円程度、セールともなれば百円程度のまさしく「目玉商品」でした。ところが2023年3月末現在、東京都下で３００円（税込み）超えが標準価格となっています。近所のスーパーでも週に２回は実施していた卵の特売もなくなりました。

　筆者は安い卵を探してスーパーをはしごするのを諦め、品質の良さそうなブランドを頼りに購入しています。



　鶏卵高騰の原因は、鳥インフルエンザによりニワトリを大量処分したことや飼料、光熱費、諸経費の値上がりと言われています。

卵不足、回復までには「半年から1年」　スーパー向け用の優先を要請
　農林水産省によると、昨年10月末以降に鳥インフルの感染が確認された養鶏場は26道県で81件。･･･殺処分の対象となった鳥は過去最高の約1645万羽。このうち、卵を産ませる「採卵鶏」は1528万羽だった。日本全体の採卵鶏の約1割が減った･･･。
（朝日新聞デジタル／益田暢子 初見翔 2023年3月25日）

　ニワトリがいなくなれば、卵が不足するのは当たり前。これから雛を育てても、以前の生産体制が整うのは早くても秋以降になるそうです。

　実はこの卵不足は日本に限ったことではありません。お隣の台湾では日本よりも事態は切迫していました。

「卵不足」は日本より台湾の方が深刻
「ひとり10個」に大行列、宿泊したら"雛プレゼント"も大人気
　卵不足は日本でも取り沙汰されているが、台湾はより深刻だ。「卵の乱（雛蛋之亂）」と呼ばれている。
（デイリー新潮 2023年3月26日）


　2022年の夏以降という早い時期から卵の値上がりに悩まされていたのがアメリカです。卵価格の高騰を言い表す造語、「エッグフレーション:eggflation」まで生まれました。

　鳥インフルエンザはアメリカでも大流行しています。アメリカ農務省によりますと、処分されたニワトリなどの数は2022年2月以降、1年間で約5860万羽にのぼります。（2023年3月6日時点）

卵の価格高騰 アメリカでニワトリを自宅で飼う人続出？
アメリカでも日本と同様、卵の価格が高騰しています。ある販売所では1パック12個入りで5ドル（約680円）。市民の生活を直撃する事態に、卵の"密輸"を試みる人たちや自宅でニワトリを飼い始める人まで出ています。
（NHK国際ニュースナビ 2023年3月9日）

　上記のニュースサイトでは５ドルと控えめですが、カリフォルニア州などの都市部では２月後半の卵価格は７ドル台半ば（Egg prices increased 70% over the last year?here's why（make it） :米国農務省の2023年2月末レポート）との情報もあり、ひとパック１２個入りが千円は現実的な価格のようです。

　さて、アメリカでは自宅でニワトリを飼って、卵を手に入れようとする人も多いとのこと。一見、エコでSDGs（持続可能な開発目標）っぽくて、アメリカは進んでる社会と感心しますね。

　しかし、いくつか問題があります。まずはフンの処理です。ニワトリに優しいからと放し飼いを選択すると、飼育場全体を毎日のように清掃しなくてはなりません。集めた鶏糞はどうしますか。土に埋める？地下水や土壌汚染の危険があります。畑の肥料になる？時間をかけて完全発酵させないとただの汚染源です。
　ご近所に臭いを出さずに飼育するのはかなりの労力と技術が必要です。

　次に、ニワトリはいずれ卵を産まなくなります。専門用語では「老鶏」、「廃鶏」と言うそうです。その時、SDGsな家庭はどうするのでしょうか。老鶏は殺処分してゴミに出しますか？できませんね。では自然死するまで飼い続けますか。それでは卵を得るという最初の目的から外れてしまいます。ニワトリはすぐには死にませんから、何もしなければ卵を産まないニワトリが増え続け、エサ代だけがかかります。

　また、有精卵から雛をかえす場合、メスだけが生まれるわけではありません。雛の半分はオスだったという可能性があります。しかも素人目では、オスメスの区別は成鳥にならないとつきません。



　オスや廃鶏は解体して食べれば良い？自宅で鶏を解体して食べるのは、衛生上のリスクが伴います。

　すべての手間とリスクを養鶏業者さんが負担してくれているのです。少々高くても、卵は買った方が楽ですよ。

　小学生時代にニワトリ20羽の飼育担当だった筆者が言うのですから、間違いはありません。（水田享介）