「藻」の研究と言えば、藻類バイオマスから航空燃料を生産する研究が官民含めて盛んに行われています。
それもこれも増大する二酸化炭素の排出を抑えるという国の思惑も働いています。石油との価格競争ではいまだ一歩及ばないようですが、いずれは藻のパワーで空を飛べる日も来ることでしょう。
産油国の地下に眠る原油とは、もともと何億年かの昔にあった藻類が、地下深くで高温高圧を受けて石油になったもの。その工程をプラント化すれば現代でも石油そのものは理論的に作れるそうです。
<ドキ時!サイエンス>(1)日本は産油国になれる
海や池にいる小さな藻類には、石油に似た成分のオイルを作る能力がある。その能力を上手に引き出せれば、原油輸入量を大幅に上回るオイル(バイオ原油)が、低コストで生産できる...。
(東京新聞 2022年5月30日)
こうした目に見える藻のエネルギー利用以外にも、日本には藻の基礎研究を続けている方がいます。
30年にわたりコツコツと藻の研究を続けた女性が、このたび大発見を成し遂げたことをご存じでしょうか。
わたしの研究がまさか...科学雑誌の表紙になるなんて
世界的に有名な科学雑誌「サイエンス」の表紙を1枚のイラストが飾った。描かれているのは、海水に漂う小さな藻。...「サイエンス」に掲載された論文の著者の1人、高知大学客員講師の萩野恭子さん。
(NHK NEWSWEB/WEB特集 2024年9月28日)
※科学雑誌「サイエンス」表紙を飾った"うちの子"、「ビゲロイ」
「Science」Volume 384|Issue 6692|12 Apr 2024
Image: N. Burgess/Science; Data: Tyler Coale et al., University of California Santa Cruz
https://www.science.org/toc/science/384/6692
「ビゲロイ」の美しさに魅了されて藻の研究を始めた萩野さんでしたが、なかなか進展しませんでした。そのうち大学所属研究者の任期も切れ、自宅に研究の場を移して、個人研究に変わります。
なぜ「ビゲロイ」を研究するのか、どんな利益があるのか。それがわからないから研究するのが基礎研究なのですが...。短期間で成果を上げられる研究ではなかったため、どこからも支援は受けられなくなりました。
それでも諦めることなく試行錯誤を続けた結果、ついに「ビゲロイ」の培養に成功しました。この技術により「ビゲロイ」研究は新たな段階に入ります。同様の研究していたアメリカの研究所が萩野さんの培養技術を利用し、「ビゲロイ」の細胞分裂の分析に成功したのです。
そこから「ビゲロイ」が窒素を直接体内に取り込む過程を明らかにして世界初の発見につながりました。
ミトコンドリア、葉緑体と並ぶ発見
ヒトをはじめ動植物の体内に呼吸で取り込んだ酸素を使いエネルギーを生み出している、細胞内にある小器官の「ミトコンドリア」。植物のなかで太陽光を使って二酸化炭素と水から酸素などを作り出す光合成を行う「葉緑体」。
...
"合体"による窒素を取り込む能力の獲得は、生命の歴史のなかで、ミトコンドリアと葉緑体に並ぶ新たな能力獲得の事例であり、今回が初の発見だ。
(NHK NEWSWEB/WEB特集 同上記事より引用)
生物がエネルギーを取得する方法は、ミトコンドリアと葉緑体がありました。そこに「窒素と合体(取り込み)」という新たな手法が加わったのです。
この研究は生命の進化の過程を解き明かす手掛かりになるかもしれません。
また、生物のエネルギー取得方法がもうひとつ加わったことにより、この技術を応用して、植物に空気中からダイレクトに窒素を取得させて、高効率の農産物生産が可能になるとも言われています。
将来に大いに夢を抱かせることとなった「ビゲロイ」研究ですが、この発見に至るまで研究機材も研究費もすべて自前です。研究室も自宅の六畳間です。
このままではせっかくの才能が日本からどこかへ旅発ってしまいそうな気がしてしかたありません。日本の基礎研究への支援方法は何とかならないでしょうか。(水田享介)