ここ数年来、空前絶後とも言える「世界的規模の抹茶ブーム」だそうです。オバマ元大統領の抹茶アイスの想い出話(2009年)以降、アメリカ、ヨーロッパで抹茶が広く認知され、ロンドンのティーバイヤーの話では、紅茶文化を創ったイギリスで、ついに抹茶の売り上げが紅茶を抜いたと語っています。
英国で抹茶が大ブーム 入手困難で「売り上げ紅茶超え」も
「2年前までロンドンでは抹茶の専門店が数件あるだけでした。今ではほぼすべてのコーヒーショップが抹茶を提供するほどのブームです」
日本食への関心の高まりに加えSNS映えするとして、ロンドンではここ数年で抹茶が大ブーム...。
(テレ朝NEWS 2025年5月17日)![]()
しかしこの抹茶ブーム、いいことばかりではありません。抹茶の不足からニューヨークのカフェでは抹茶ラテの容量を減らしたり、別の店舗では価格を引き上げる動きを見せています。
また、伊藤園では抹茶商品の価格を、今年9月1日から最大2倍に引き上げると発表しました。
伊藤園 「抹茶」「緑茶」製品を値上げへ
9月から順次"最大2倍"に 世界的な抹茶ブームで需給がひっ迫
(TBS NEWS DIG 2025年7月31日)
その一方で日本国内では製茶会社の倒産が相次いでいます。抹茶ブーム、お茶需要の拡大の最中に何が起きているのでしょうか。
「製茶業」の倒産・休廃業解散動向(2025年1-7月)
製茶業の廃業増、 2025年は過去最多ペース 「抹茶ブーム」が逆風
(帝国データバンク 2025年8月4日)
倒産・廃業件数は過去最多の11件。抹茶用茶葉の生産が伸びる一方、煎茶やほうじ茶用茶葉の生産が落ち込んだため原料茶葉の価格が上昇。生産コストの急上昇を価格に転嫁しきれず、赤字に陥ったことが原因と分析しています。
この負のスパイラルは昨今の米価高騰に似たものがあります。食用米ばかりが生産され、米菓、調味料などの加工用米や酒米、飼料米が不足して原料価格が高騰。製造コストの上昇で米を原料とする産業が立ち行かなくなるのではと杞憂されています。![]()
そんな中、驚きのニュースが飛び込んできました。
抹茶ブームの中国 "世界最大級"の生産か
「推計5000トン超」生産額60億円超の町も
「中国の今年の抹茶生産は推計で5000トンを超え、世界最大級になる」
国営メディアによると、なかでも南西部の貴州省銅仁市は、「中国抹茶の都」と呼ばれ、販売量は1200トン以上、生産額は日本円でおよそ60億円...。
(テレ朝NEWS 2025年8月17日)
筆者は「抹茶よ、お前もか」という気分です。
日本の農産物はことごとく近隣国に模倣され、市場を奪われてきた事例は枚挙にいとまがありません。和牛、メロン、サクランボ、イチゴ、シャインマスカット...。数え上げればきりがないほど沢山の品種が海外流出しています。
ただ抹茶そのものは中国が発祥と言われています。中国で茶葉を粉にするアイデアが生まれ、そこから日本独自の抹茶文化が育ったようです。
抹茶の歴史
約八百年前の鎌倉時代初期、臨済宗の開祖、栄西禅師が中国の宋から茶の種子を持ち帰ったのが現在の喫茶文化につながる源だと伝えられています。この茶は煎じて飲む煎茶の飲み方ではなく、粉末にして飲む抹茶の飲み方と同じ...。
(株式会社 山政小山園・公式サイトより)![]()
土地も人も有り余る中国が本気で抹茶生産を始めれば、あっと言う間に日本を追い越すでしょう。日本産の抹茶不足の今、たとえ中国産抹茶でも飛ぶように売れることは間違いありません。
ただ、茶葉の生産方法も抹茶の製法も日本とはかなりの差があるそうです。お茶の木に日除けをして渋みを抑える栽培方法などは中国では取り入れていないため、その味覚、風味には大きな差があるとのこと。![]()
※京都府和束町の茶畑
とはいえ、中国産抹茶は日本にも輸出されており、私たちも気付かないうちに飲んでいるかもしれません。
こういう場合、日本の高度な製造技術を他国に教えてよいものか、悩みは尽きませんね。読者の皆さんはどう思われますでしょうか。(水田享介)