私たちは日常的にさまざまな略語、用語に囲まれて生活しています。一過性の流行語から普遍的な学術用語まで多種多様です。
小難しいカタカナ用語を繰り出して、その場をひと言でまとめてしまう人(言いくるめるとも)はたぶん、どこの職場にもひとりやふたり、必ずいるものです。
先日、SNS(X)上でとある心理用語の解説を見つけました。
ツァイガルニク効果(発見者:心理学者/ブリュマ・ツァイガルニク)
ツァイガルニク効果(Zeigarnik effect)とは、「達成できた事柄より達成できていない事柄・中断している事柄を意識している状態を示す用語(Wikipediaより)」と紹介されています。
1927年のベルリンのカフェ。ソ連から留学でやってきた26歳の女性はひとりのウェイターに目を留めました。いくつものオーダーを受け付け、できあがった料理を間違いなく配膳するウェイターの姿。テキパキとした働きに心を奪われた、わけではありません。
「ランチ客のオーダーをあのウェイターはいつまで覚えているのかしら」。勘定を済ませた彼女はウェイターに尋ねてみました。
ところが、注文をした彼女を含め、会計が済んだ客が何を食べたか、ウェイターは何一つ覚えていなかったのです。「さっきまで完全に覚えていたのに!」
今も昔もウェイターが会計を済ませた客の注文など忘れて当然。次から次へと注文を捌くのが仕事ですから。しかし、心理学者のツァイガルニク嬢は違いました。心理学者としての刃がウェイターの深層心理を切り開き始めました。
(Xの記事より要約)![]()
※X記事
このことをきっかけとして誕生したのが「ツァイガルニク効果」です。
いまならば、筆者のようなIT業界人が、キャッシュメモリ(SRAM)とフラッシュメモリ(SSD)の違いでしょうね、と片付けそうな話です。しかし、コンピュータのコの字もない100年前にヒトの記憶の働きから心理に及ぼす効果まで導き出したのは、心理学者ならではの慧眼と言えるでしょう。
この発見のポイントは「会計前のオーダーは覚えている。会計後はすべて忘れる」こと。つまり、
「未達成や中断状態のままの仕事や学習は忘れにくい(意識に残る)」
ということです。![]()
※イメージ
かつてテレビ番組では、「続きはCMのあと。結末は来週のお楽しみ...」と番組を中途で終わらせていたのもこの記憶の効果を狙ったものです。
いまとなっては録画やネット視聴でこうした姑息(?)手段も無効化されてしまいました。
実はこの心理特性の活用法はもっと身近にあります。何事もキッチリと終わらせたがる日本人の特性に逆らう形で実現を迫ってきます。
誰しも「この仕事はキリのいいところまでやろうか」、「この章の終わりまで勉強するとスッキリする」と思いがちですが、それは逆効果。
キリがよかったりスッキリする終わり方だと、仕事も勉強もその成果は記憶に残らないそうです。カフェのウェイターと同じですね。
仕事ならやりかけのまま、学習なら途中のページで休憩を取ったり終了させる方が記憶に残りやすくなります。
脳にある程度の緊張状態を持たせたまま仕事を中断しましょう。再開した時に脳のモチベーションが維持されていることで勉強の成果が上がるそうです。
ただこれには弊害もあります。やりかけの仕事が多すぎると覚えておくことが困難となり、記憶があやふやなままどこから着手するのかわからなくなり、ついには仕事ができなくなるとも言われています。
手つかずのままのこと、やりかけのままの作業、いつかやろうと思うこと...。それは自分の能力不足という訳ではなく、脳のモチベーション維持のための活力源(苦肉の策?)かもしれませんね。(水田享介)