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お知らせ
2022年06月27日
特別寄稿:いま話題の「サル痘」って何?
なにやら耳慣れない感染症「サル痘」が話題です。
2022年5月から報告が相次ぎ、世界40カ国以上で2100人超の感染が確認されています。
韓国やシンガポールでも感染者が確認され、国内で感染者が出るのも時間の問題といわれています(記事投稿時現在)。

そこで今回、『図解 身近にあふれる「感染症」が3時間でわかる本』の著者の一人、桝本輝樹先生(亀田医療大学准教授)に特別寄稿していただきました。

そもそもサル痘って何? 私たちが知っておくべきこととは? こわいものなの? など、気になる点についてまとめています。参考にしていただければ幸いです。

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病原体は「サル痘ウイルス」


サル痘は、1970年にコンゴ民主共和国で最初のヒトへの感染が確認された感染症です。
天然痘と同じオルソポックスウイルス属の「サル痘ウイルス」が病原体です。

サル痘感染者の致死率は1〜10%程度で、かつて全世界で大きな被害をもたらした天然痘(30%)に比べると病原性も感染力も弱いとされています。
中央アフリカから西アフリカにかけて散発的に発生し、2017年からナイジェリアで地域的に流行していました。

しかし、北米やヨーロッパなどでの感染報告が2022年5月ごろから相次いでおり、6月後半にはWHOが緊急事態(国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態)の宣言を検討する事態に発展しています。6月後半段階での宣言は見送られましたが、WHOは今後も注視する必要があるとコメントをしています。

媒介者は「サル」ではない


サル痘の名前は1958年に研究施設で飼育されていたサルから天然痘様の感染症として報告されたことに由来します。
しかし、サル痘の本来の宿主はアフリカオニネズミなどのげっ歯類で、そちらが主な媒介者だと考えられています。
米国内ではプレーリードッグなどを介した感染も確認されており、サルを避ければ大丈夫、というわけではありません。
誤解を招きやすい名称なので、WHOは病名の変更を検討しています。

流行地では基本的な感染対策を


サル痘は感染症法上、媒介感染(ネズミや虫などを介した感染)をするものに分類される4類感染症に指定されています。
動物の輸入時の検疫、流行地の媒介者の駆除などが行われるほか、患者が発生した場合は保健所に届ける必要がありますが、6月20日現在では国内の感染者は報告されていません。

外務省は流行地に旅行をする場合、げっ歯類等のほ乳類(死体を含む)との接触を避け、野生の狩猟肉(ブッシュミート)を食べたり扱ったりすることを控え、石けんと水、またはアルコール消毒液を使用した手指衛生を行うよう呼びかけています。

感染力は強くない


北米やヨーロッパなどにおける感染拡大では、今までと異なり、性行為や寝具やタオルなどリネン類の共有といった濃厚接触によって人と人との間の感染がおきていると思われています。
そのほかに媒介する動物(家畜など)がいるかどうかなどはまだ明らかになっていません。
感染力は強くないので、症状のある人の飛沫・体液等との接触やリネン類の共有を避けるだけで十分だと言われています。

1976年生まれ以降はワクチン未接種


近縁種である天然痘(痘瘡)のワクチン(種痘)や抗ウイルス薬が有効であることもわかっています。
ワクチンや治療薬の薬事承認についても厚生労働省が検討を進めています。

天然痘はWHOにより1980年に根絶宣言が出された感染症ですが、1976年までは国内でワクチンの接種(種痘)が行われていました。
2022年現在でおよそ45歳以上の人は接種を受けていることになります。

また、2001年からは国内での天然痘ワクチンの備蓄も開始されています。
具体的な備蓄量は公表されていませんが、感染が国内に広がる可能性が出てきた場合は、リスクが高い感染者の家族や濃厚接触者から接種が受けられるようになる見通しです。

東アジア諸国でも感染者が出はじめており、国内への波及も時間の問題だと思われますが、不安をあおるニュースに惑わされず、冷静に対応していただきたいと思います。

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『図解 身近にあふれる「感染症」が3時間でわかる本』(左巻健男・編著、明日香出版社)では、新型コロナウイルス感染症だけでなく、サル痘に似た天然痘や、人畜共通感染症である鳥インフルエンザ、ワクチンや今までの様々なパンデミック、感染症の分類などについても取り扱っています。
感染症にまつわる不安や関心がある方はぜひお手に取ってみてください。


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【参考】 「サル痘について」(厚生労働省)

【参考】 『図解 身近にあふれる「感染症」が3時間でわかる本』(左巻健男・編著)
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