「できる!」ビジネスマンの雑学
2025年05月26日
[981]管理職回避から「静かな退職」へ

 この数年、若手社員の意識調査で「管理職は罰ゲーム化している」、「管理職になりたくない」という意見が増えているそうです。

「管理職になりたくない」77% 負担をどう減らす?改革の現場に密着
「日本の管理職は罰ゲームのような状況。チームのなかでこぼれた仕事をやらなければならないし、部下の属性や価値観が多様化してコミュニケーションをとるのも相当難しくなっている」と専門家・・・。
NHK 首都圏情報ネタドリ! 2023年6月23日

 このニュースの報道は約2年前。モラハラ、パワハラ問題が表面化して部下を叱咤激励するのにも気を遣わざるを得ず、管理職はどんどん損な地位になっていきました。

 企業でもただ手をこまぬいていたわけではなく、マーケティング手法やコーチングなどさまざまなノウハウを取り入れていましたが、あれからどうなったでしょうか。

 実は管理職を回避することから進んで、いまでは「静かな退職」が大はやり。ことはさらに深刻化(?)、もしくは進化(?)していました。

 「静かな退職」とは、職場で気配を消しつついつの間にか退職する人のことかな、と筆者は思いました。違いました。退職はしないのです。

 正しい意味は「仕事に熱意や上昇志向を持たず、与えられた仕事を最低限こなす働き方」とのこと。2022年にアメリカで「quiet quitting(静かな退職)」という働き方が提唱され、今では全米で流行中。それが日本社会でも受け入れられたようです。

正社員の静かな退職に関する調査2025年(2024年実績)
20~50代の正社員に「静かな退職」をしているか聞いたところ、「静かな退職」をしていると回答した割合は44.5%と4割を超えた。
マイナビキャリアリサーチ 2025年4月22日

 アメリカ人の理想の働き方というのは、40代までがむしゃらに働いて蓄財し、早期リタイヤして長い余生を遊んで暮らす・・・。それがアメリカではなかったのです。
 生存競争の激しいアメリカ社会で、低空飛行のまま定年まで波風立てず職場で過ごすことを選んで大丈夫かなと思いますが、仕事も人生も長持ちする秘訣はこれしかないと、アメリカ人もようやく気がついたのでしょう。

 日本でもかつては「モーレツサラリーマン」「企業戦士」など勇ましい呼び名がありました。しかしそれと同時に、「サラリーマンは気楽な稼業」と唄う「どんと節」(ハナ肇とクレイジーキャッツ)、「スーダラ節」がはやっていました。

 「ドント節」や「スーダラ節」は筆者の親世代のヒットソングですから、その頃の社会の実態まではわかりません。お気楽社員とモーレツ社員が仲良く働いていたのでしょうか。

 筆者が映画『ニッポン無責任時代』を視聴したところ、会社の机には何もなく、分厚い帳簿を広げてソロバンをはじくのが事務の仕事。営業職は数人で共用する黒電話でアポイントを取ってから出かけていました。とにかく効率が悪い。どんなにモーレツに働いても現代の仕事量の何割かしか実績は上がらなかったかも。

25052601.jpg
※暇を持て余すスワンボート

 さて、「静かな退職」が持て囃される理由は、いくつかあるようです。ひとつは家庭のあり方の変化。今では男は大黒柱という考えはなく、夫婦共働きからスタートしていますから、家事の分担は常識です。子育てから教育、親の介護まで夫婦で均等に負担しなければ成り立ちません。

 会社に24時間捧げるどころか、フルタイムを続けることすら難しくなっています。
 不意の残業、予期しない仕事の割り当て、終わりの見えない部下や新人教育など、仕事と家庭の両立を乱すアクシデントはできるだけ避けたいもの。
 誰しも「静かな退職」を選択したくなるはずです。

 さきに紹介した統計では、日本で「静かな退職」を最も実行しているのは、40代(36.0%)、50代(30.0%)とミドルシニア世代で、会社の中軸になる世代がずば抜けて仕事へのモチベーションが低いことが指摘されています。

 その原因は、昇進昇給の頭打ち、出向や早期退職などの肩たたき、失業と再就職の不安などさまざまですが、それだけとは言えないとする研究者もいます。

人生100年時代、ミドルシニア世代がいかに自分を取り戻すか-
必要なマインドとスキルとは-
法政大学キャリアデザイン学部教授 廣川 進 氏
働く50代の仕事へのモチベーションや「キャリア自律」の意識は、ほかの世代と比較して最低とも言われ、急激な変化への適応もままならない。職場では「残念なシニア」と呼ばれる現象も・・・。
マイナビ・キャリアリサーチLab編集部 2023年11月16日

 企業は「若年層の定着や幹部候補育成などを優先」するばかりで、ミドルシニア世代への目配りが足りず、国の対策も「できる限り働き続けよ」・・・。これでは労働意欲の上がりようがない(上記記事より)のかもしれません。

 アメリカではトランプ政権入りしたイーロン・マスクが政府効率化省(DOGE)を設立して、連邦職員200万人削減と1兆ドル(約150兆円)の支出削減を宣言。現在も来年9月までに連邦政府の支出を1500億ドル(約22.5兆円)削減すると掲げています。

米政府揺さぶるイーロン・マスクの「DOGE」 効率化の手法・成果に賛否
連邦政府の支出削減、無駄の排除、官僚制度の簡素化、ITシステムの近代化を通じて、政府の効率性と生産性の最大化を目指す。
日経ビジネス編集部 2025年5月23日

 安泰な職と思われていた(?)連邦政府職員に大なたを振るうアメリカで「静かな退職」がいつまで生き残れるのでしょうか。日本でもその地位は長くは続かないかもしれませんね。(水田享介)

コメントを書く
お名前
URL
コメント
書籍購入はこちら 語学音声アプリ 公開中 閉じる