筆者は大学では日本文学を専攻、数年の会社勤めを経て、コピーライターや著述業を仕事としてきました。
ことばを仕事としてきた筆者がどうしてもなじめないのが、あの「野球用語」。いえ、野球から派生した慣用句(?)としてふるまう「昭和の野球用語」です。
たとえば「全員野球」。全員で野球をやるなら野球でしか使えないはずが・・・。日本の政治家は選挙や組閣の際にしばしば好んでこの言葉を使います。「選挙は全員野球」、「全員野球で改革する」、など。
酷い時は他のスポーツの駅伝や水泳、サッカーで団結を表すために使われます。「全員野球で走ろう、泳ごう」と言われたらもう何のスポーツかわかりません。
これ以外にもわかりにくい野球用語は、粘着物質は禁止のはずが「粘投」、男なのに「女房役」、ボールで「走者を刺殺」、音はしなくても「ポテンヒット」、使って大丈夫?「ボーンヘッド」などなど。
この現象は日本だけではなく、アメリカでも起きています。米国のビジネス界では大規模な戦争や紛争のあと、除隊した人々が大量に流入してくると、いきおい軍隊用語が会社内で蔓延してしまうそうです。
なぜ会社ではわかりにくい「ビジネス用語」が使われるのか?
ビジネス用語の多くは、第二次世界大戦の終わりに、退役軍人が社会人として仕事に就いていくとき、多くの軍事専門用語が持ち込まれて誕生・・・。
近い時期にビジネスシーンに導入されたのがスポーツの用語です。・・・専門用語を、その専門用語に詳しくない人の前で使うことで、自分が強力なグループに属していることを誇示することを目的とする・・・。
(Gigazine 2025年6月1日)
あることがらを言い表すのに専門用語しかなければいいのですが、地位や権力を誇示するために専門用語を乱発されるのも困ります。
筆者が特に気になるのが、日本プロ野球やMLB(米野球)の中継で最近しばしば聞かされる「古巣」があります。
中日・上林誠知、「ホークスは強いチームだった」
古巣との3連戦「感じるものがあった...今後にどう生かせるか」
中日・上林誠知外野手は古巣・ソフトバンクとの3連戦・・・。
(中日スポーツ 2025年6月5日)
特に大谷選手への「古巣」発言は、アナウンサーが視聴者は知ってるでしょ的に「大谷の古巣対決」、「古巣と交流」と乱発気味です。
古巣とは大谷選手が所属していた「ロサンゼルス・エンゼルス」のことは言うまでもありません。
しかしこの古巣という言葉、日本人以外の選手がかつての所属チームと対戦しても使われません。
また、菊池投手と大谷選手は同じ高校の出身ですが「古巣高校対決」とも言いません。高校を卒業してからの年月がよっぽど古いので古巣の資格は最もありそうです。しかしそうはならないようです。
この「古巣」の定義や使い方を聞いたことはなく、野球のルールブックにも載っていないようです。
いつまで野球の昭和用語が続くのか誰にもわかりません。古巣は山奥にあると思って育った筆者には、今もってなじめない用語のひとつです。
「昭和の野球用語」とは筆者が定義した造語です。もう誰も見ることはない「芋の子を洗う」と同じく、日本のマスコミの伝統話芸としてこれからも使われていくのでしょうか。(水田享介)