筆者が小学生だった昭和の時代、子ども向けの読み物-主に月刊漫画誌や定期購読の教育科学誌-では、21世紀には高層ビルの間を「空飛ぶクルマ」が自在に駆け回る未来をイラストで描いていました。その時、未来は輝いていた。はずでした。
あれから50年はゆうに経っています。21世紀が来て今年で25年になりました。現在、大阪で開催中の「大阪万博では空飛ぶクルマを実用化」して、来場者を会場までピストン輸送するはずでしたね。
公式サイトではあの「ミャクミャク」さんが空飛ぶクルマを乗りこなしています。運航予定機体は4機種もあり大いに期待されていました。
Smart Mobility Expo
Advanced Air Mobility空飛ぶクルマ
空飛ぶクルマによるEXPO Vertiportと会場外ポートをつなぐ2地点間での飛行や、会場周辺湾岸エリアでの飛行を行います!
(空飛ぶクルマ|EXPO 2025 大阪・関西万博公式Webサイト)
現実はどうなったでしょう。
万博の空飛ぶクルマ、デモ飛行中に破損
丸紅が運航、当面中止に
デモ飛行中の「空飛ぶクルマ」について、日本国際博覧会協会は27日以降の運航を中止する...。デモ飛行中だった機体からプロペラのモーターカバー2個が落下した。飛行は無事終了したが、18個あるプロペラモーターの1個とプロペラをつなぐフレームに破損が見られた...。
(朝日新聞デジタル 2025年4月27日)
これまでの経緯をまとめたサイトがあります。
万博の空飛ぶクルマ、全陣営が「デモ飛行」すら断念か
目玉の一つに据えられていた空飛ぶクルマは、全陣営が商用運航を断念し、さらには、日本航空(JAL)と住友商事の共同事業体については、デモ飛行すら断念することが判明した。
(自動運転ラボ 2025年3月31日)
これに対する筆者の意見は、「万博のメダマ」が飛べなかったのは残念ですが、安全性を考慮して飛ばさなかった判断は高く評価できます。
たとえ飛んだとしてもひとりかふたりの乗客を運ぶデモストレーションですから、実用性のある交通手段とならないのは判っていました。
筆者は当コラムで、大阪万博会場はベイエリアにあるから、昔の東京・晴海会場のように伝馬船でもポンポン船でもいい。立ち席でもいいから大人数をピストン輸送するには船便が最適と提案しました。が、21世紀の交通手段にはふさわしくなかったのか、採用されず仕舞いです。
日本の空飛ぶクルマに未来が見えない中、アメリカでは着々と実用化に進んでいます。
空飛ぶクルマより実用的!?
米電気飛行機「世界屈指の混雑空港」まで乗客4人を45分で運んだ!
まもなく日本でも飛ぶ予定
アメリカで電動垂直離着陸機(eVTOL)の開発製造を手がけるBETAテクノロジーズは2025年6月3日、独自開発した電気飛行機「ALIA CTOL」が、乗客を乗せた初のデモ飛行に成功したと発表・・・。
(乗りものニュース・編集部 2025年6月8日)
この米企業(BETA Technologies)では、垂直に離発着できるモデル(ALIA VTOL)と滑走路を使うモデル(ALIA CTOL)の2機種を開発しており、今回デモフライトしたのは定員6名(パイロット1名含む)の後者のモデルです。
※BETA社製eCTOL「ALIA CTOL」
※BETA社製eCTOL「ALIA VTOL」
この機体のいいところは電気駆動のため航空燃料庫は不要。今回のデモは130キロを飛んで千円(8ドル)程度の電気代だったそうです。
騒音軽減につながるか...注目の電動航空機、米NYの国際空港に着陸
ニューヨーク州の東端に位置する町から離陸し、およそ130キロ先の目的地に45分ほどで到着したということです。
今回の試験飛行では、電気代がおよそ7ドル...。
(日テレNEWS 2025年6月4日)
このニュースではヘリコプターとの比較がなされていますが、飛行原理が違いますので、ジェット機との比較が良さそうです。
この機体は6人が定員ですが、出力を上げバッテリーの高密度化・軽量化が進めば、すぐに数十人の乗員を運べるはずで、現行の民間旅客機の小型モデルとの転換が進むと予想されます。
21世紀になってわかったことは、一人乗りの電動スクーターが免許も持たずに街中をルール無視で走り回るととても危険でやっかいだということ。空を飛べないうちから社会問題化しています。
もし「空飛ぶクルマ」が実用化されると、道路から急に飛び上がったり目の前に突然空から降りてくる輩は必ず出てきます。電線や高圧線に垂れ下がるクルマが続出して一般道は阿鼻叫喚と化すでしょう。
道を走り空を飛ぶオケラのような「空飛ぶクルマ」よりも、制限空域を安全に手堅く飛ぶ電気飛行機のある未来の方が、何倍もましで安心だと筆者は思います。
アトムや鉄人が飛び回る未来は来なくてもいいかな。みなさんもそう思いませんか。(水田享介)
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【関連サイト】
BETA Technologies
https://beta.team/