先週、アメリカで降って湧いたように「王はいらない」=「ノー・キングス」抗議デモが行われました。全米で500万人が参加したとのことです。
米 大規模軍事パレード 「王はいらない」大統領への抗議デモも
14日に首都ワシントンで軍事パレードが行われたのにあわせて、「ノー・キングス」=「王はいらない」と題した、トランプ大統領に抗議する全米規模のデモが行われました。
主催者は、2100か所以上であわせて少なくとも500万人が参加したと発表・・・。
(NHK NEWSWEB 2025年6月15日)
このデモは米陸軍創設250周年を記念して開催された軍事パレードに抗議してのものです。
抗議理由には「65億円パレードは税金の無駄」、「トランプ大統領の誕生日(6月14日)に開催するのは軍の私物化」、「王のように振る舞う現大統領に反対」などさまざまです。![]()
※ChatGPTがイメージする現職米大統領
しかしアメリカ人のこれらの意見には抜け落ちているものがあります。それはアメリカとその国民を外から見つめる外国人の視点です。
他国から見たアメリカは、世界最大の軍事力(2023年は9160億ドル=約140兆円)です。時には友好的に、時には強大な武力を見せつけて他国へ無理難題を押しつけてきた過去があります。他国から見たアメリカとは傍若無人にふるまう王国であり、その王国の大統領は世界のどの国にも干渉し支配すらできる権力を保持しています。
米国人がトランプ大統領は王のようだと抗議するなら、もっと以前から他国に思うがままにふるってきた米国のあり方そのものを見直した方がよろしいかと思います。
そんな中、米国内で始まった「王はいらない」デモは、反トランプ派のメディアはこぞって批判記事を連ねていますが、筆者は冷たい視線で見るほかありません。
「米国に王はいらない」トランプ氏への抗議デモ
全米各地で開催 政権復帰後最大規模
多くの参加者が中心部マンハッタンを行進した。ニューヨーク在住のナンシーさんは「(米国が独立した)1776年からこの国に王はいない」と書かれたプラカードを掲げて行進。
(産経新聞 2025年6月15日)
アメリカの歴史を振り返ると、歴代大統領の多くが軍出身もしくは軍隊経験者です。AIの調べでは、45人の歴代大統領のうち33人(※2)に軍歴あり。そのうち高位の軍歴を持つのは15人。![]()
※ChatGPT調べ
たとえば初代大統領のジョージ・ワシントン。フランス軍やイギリス軍で経験を積んだ後、反英派に転じて独立戦争に参加。米国陸軍の総司令官としていくつもの実績を上げて独立戦に勝利。イギリスの一植民地に過ぎなかったアメリカを独立国として認めさせました。
その実績を元に初代大統領に就いたわけですから、フランスで言えば皇帝ナポレオン相当であり、ワシントンは米国皇帝か初代国王といっても過言ではありません。
※ちなみにアメリカ国歌『星条旗』は二度目の米英戦争時(1812~1815年)の1814年に作られました。戦争の主因は貿易の利権争いで引き分けに終わる。
そのため米国歌にはアメリカ独立戦争(1775~1783年)とも崇高な独立精神とも一切関係がありません。![]()
※ジョージ・ワシントンの肖像がある1ドル紙幣
すこしだけ歴史を紐解けばわかりそうな事実なのに、なぜ「1776年からこの国に王はいない」(※)と言い切れるのか。そこには自国第一主義と短絡的なメッセージ発信の意図が見えています。
※米大手通販では「NO KINGS IN AMERICA SINCE 1776」のメッセージ入りウェアも売られています。
私たちはいっときのはやりの言葉や集まりに同調したりSNSで拡散したりすることに、もっと慎重であるべきです。
日本製鉄のUSスチール買収では、アメリカ政府の政治介入で決着がつきそうです。
日本製鉄のUSスチール買収 米商務長官 "黄金株"権限を説明
アメリカ政府が保有する「黄金株」によって制限できるとする内容・・・。大統領の同意なく本社の移転や社名の変更、アメリカ国外への鉄鋼生産の移転はできない・・・。
協定にはアメリカ政府がUSスチールの経営の重要事項について拒否権を行使できる特殊な株式「黄金株」を持つ・・・。
(NHK NEWSWEB 2025年6月16日)
トランプ大統領はこの問題では何度も「黄金株」を持つと発言しています。その黄金株の中身が「王言(おうごん)株」でないことを祈っています。(水田享介)
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(※2)
軍歴のある主な大統領は実は34人でした。
ChatGPTは、ロナルド・レーガンを見落としてました。
レーガン大統領は広報で、階級は陸軍大尉でした。![]()
※ChatGPTと筆者のやり取り