「若者言葉」や「流行語」とは真逆な位置にあるのがもう使われなくなった言葉--、そうした言葉はいわゆる「死語」とひとくくりにされています。
これとは違い、今も立派に使われている慣用語のはずが、ある年代以下には理解が取り違えられている言葉があります。
使われているのに意思疎通ができない。死語とは言えないまでも、誤解されやすいうえにトラブルの元になりそうなやっかいな言葉の事例をご紹介します。
とある企業の上司が新入社員にこう言いました。
「明日は大事な会議だ。ちょっと早いが8時10分前に集合!」
翌朝、上司は7時50分に集合場所に到着しました。しかし新入社員はいっこうに現れません。
結局、新人の彼は何時に現れたでしょうか。
令和の若者は「8時10分前に集合」で8時8分に来る!?
なぜ「7時50分」ではないのか?衝撃の世代間ギャップの理由
( めざましテレビ「ココ調」より 6月25日(水)放送)
いまどきの若者は「8時10分前」を言葉の順番通りに「8時10分」より少し前 と解釈しているそうです。類似の事例は新聞でも紹介されています。
4時10分前 世代によって異なる解釈
【一語ショート 言葉を味わう】
中学校の先生からの投稿で、「4時10分前」の解釈が世代によって違うという報告があったそうなのだ。50歳以上の先生が全員「4時10分前」を「3時50分」と答えた一方で、生徒たちや若い先生の一部は「4時9分ごろ」と答えた・・・。
(西日本新聞 2024年9月25日)
たとえばバスツアーで出発時間を伝える時に、「4時10分前に集合です」と言うと、上記の記事のごとく世代によって集合する時間が違ったとのこと。
ところが、これは最近の傾向というわけではなく、以前からこのような誤解が生じていたことが放送業界の調査に残されていました。
"9時10分前"は,何時何分?
~2020年「日本語のゆれに関する調査」から(1)~
(「放送研究と調査」・メディア研究部 塩田雄大 2020年12月)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/bunken/70/12/70_36/_pdf/-char/ja
この論文では60年近く前(1968年)から、誤解を生みやすい表現として取り上げています。
「つまり,1968年の時点で,「3時5分前」は解釈にゆれのある表現であること」
(上記論文より引用)![]()
※昭和時代の待ち合わせ風景
実は筆者も学生時代に新宿のとある劇場に手伝いに行った際、ある俳優さんに時間を尋ねられて「○時前10分」と応えたところ、「それは○時10分前のことだよ」とやんわりと直された経験があります。
論文では福岡や大分では「○時前△分」といういい方が一般的で、これは方言であると紹介され、九州で育った筆者としては約50年ぶりに胸をなで下ろしています。
「○時前5分」や「○時前10分」といういい方は、どこかに集合したり待ち合わせたりといった学習行動を伴わなければ、なかなか浸透しない用語かもしれません。
そもそも人と人が時間と場所をキッチリと決めて落ち合うことすら、いまどきはなくなりました。
お互いが通話状態のスマホを片手に会うことが増えた気がします。すれ違いドラマのようなドキドキはなくなりましたが、タイパ、コスパを気にする現代っ子にはちょうどよいのかもしれませんね。(水田享介)