正倉院と言えば、奈良時代からの宝物(ほうもつ)がいくつも収められています。その中でも特別な逸品といえば「蘭奢待(らんじゃたい)」より他にはないかもしれません。![]()
※「蘭奢待」実物
何と言ってもその時々の権力者が、切り取って香りを楽しんだ事がわかっています。切取った痕には切り取らせた人物の名札も残されています(明治以降の記録)。
室町時代には銀閣寺を建てた「足利義政」、戦国時代の武将「織田信長」、最新では明治天皇など。判っているだけでも歴史上の人物50名余りが数えられます。
実際にその香りをかいだ人は、時の権力者だけのごくわずか。あまりにも貴重な香木のためいつしか門外不出となり、どのような香りがするかは近年では大きな謎になっていました。
しかし、最新科学によってその香りの謎が解き明かされつつあります。
正倉院の宝物 織田信長らが求めた香木「蘭奢待」香り成分判明
「蘭奢待(らんじゃたい)」と呼ばれる香木の詳しい調査が行われ、ハチミツやシナモンのような甘い香りなど、300種類以上の香りの成分が含まれている・・・。
(NHK NEWSWEB 2025年7月15日)
ハチミツとシナモンをまぜて、焚きこめると香りが再現できる!--わけではありませんが、香り成分の主体はこれに近いものだそうです。
香りの調査と同時に年代測定をしたところ、
「原木は8世紀後半から9世紀末ごろに伐採もしくは倒木した可能性が高いことも判明」
(上記同記事より引用)
※香り成分の調査風景
奈良時代末~平安時代初期の香木と判明したわけですから、かれこれ千年以上も保管されてきたわけです。
たった一本の香木ですが、奈良時代以降の日本の歴史とともに歩んできて、いまも現存することに何かしら不思議な縁(えにし)を感じるのは私だけではないでしょう。
筆者はかつて東南アジアのトレッキング(低山歩き)を趣味としていました。あるときガイドの若者から切り株から削り取った木片をこれが香木だよと渡されました。
ライターで炙ると、たちまちお線香の香りが立ちのぼり、とても木を焼いただけとは思えません。木片をいくつかもらって帰国しましたが、いつの間にかまさしく香りの如く、雲霧消散してしまいました。
香木とは人を選ぶのかもしれません。
この香りの調査では香料メーカーの専門家も参加しているとか。もしかすると数年後には「蘭奢待風の香水」が出てくるかもしれません。
実は今年、その香りをかぐ展示会が大阪と東京で開催されます。
特別展「正倉院 THE SHOW」
開催概要
展覧会名:特別展「正倉院 THE SHOW -感じる。いま、ここにある奇跡-」
会場:大阪歴史博物館(大阪市中央区)
会期:2025年6月14日(土)~8月24日(日)
開館時間:9:30~17:00(入館は閉館の30分前まで)
休館日:毎週火曜日(ただし、8月12日[火]は開館)![]()
2025年7月26日(土)にはトークイベントも開催
◆タイトル:特別展「正倉院 THE SHOW」開催記念トークイベント「科学で紐解く正倉院 ~蘭奢待の香り再現プロジェクトに迫る~」
◆:日時2025年7月26日(土)午後1時30分開演、午後3時終演予定(受付開始:午後1時)
◆会場:大阪歴史博物館 4階講堂
◆出演者
▽中村力也氏(宮内庁正倉院事務所保存課長)
▽高部圭司氏(京都大学名誉教授)
▽菅原俊二氏(高砂香料工業株式会社研究開発本部専任研究員)
▽コーディネーター:新口絢子氏(フリーアナウンサー)
◆定員:250人(要チケット購入・先着順)
◆料金:鑑賞券付きチケット2,800円(税込)
※既に鑑賞券をお持ちの場合は1,000円(税込)
【巡回情報】
展覧会名:正倉院 THE SHOW -感じる。いま、ここにある奇跡-
会場:上野の森美術館(東京都台東区)
会期:2025年9月20日(土)~11月9日(日)
※開館時間、休館日、観覧料などの詳細は、決まり次第公式ウェブサイト等にてお知らせ
公式ウェブサイト:https://shosoin-the-show.jp
実物に近いものだけど本物ではないモノにあふれる現代。「蘭奢待」に近い香りを誰もが嗅ぐことができる時代になりました。
そのことはいい時代になった証(あかし)かもしれませんが、「蘭奢待」だけは「本物の蘭奢待」のまま、未来の日本に受け継いでいってほしいですね。(水田享介)