今年、令和七年(2025年)の「大暑(たいしょ)」は、7月22日でした。大暑とは二十四節気(にじゅうしせっき※)の1つで「一年でもっとも暑い頃」を意味し、7月22日から8月6日が大暑にあたります。まさにここ数日の酷暑を言い当てています。
※二十四節とは1年を春夏秋冬の4つに分けて、さらに各季節を6つに分けてそれぞれに名称を付けたもの。節気としては、立春、春分、夏至、冬至などがよく知られる。
7月21日の「海の日」とあわせて3連休となるため、行楽や旅行を計画しやすいのですが、どれだけの方が出かけられたでしょうか。
この暑さの中、安全のため外出や運動を控えた方も多かったと思います。
筆者の住む東京都は今年の梅雨明けは7月18日でした。この日以降、厳しい暑さが始まりました。翌日、7月19日は「土用の丑の日」。
筆者はこの土用の声を聞くと、必ず実行しているイベントがあります。
それは「梅の干し作業」。![]()
※2024年の梅干し
梅干しという名前の如く、梅干しを作る過程で必ず一度、梅を陽に干す必要があるのです。しかも3日間は連続して干すため、にわか雨などの心配のない梅雨明け後と決まっています。古来からの習わしです。
ただ干すだけではありません。半日経つと梅の実ひとつひとつを裏返してまんべんなく陽をあてることと指南書にあります。欲を出して沢山の梅を漬けるとそれだけ裏返し作業は長引き、この暑い中では体に負担となります。
これに加えて、昨年までの梅干しも日に当てます。衛生のため古い梅も年に一度の日光浴は欠かせないとか。
筆者は、2024年産、2022年産の梅干しを保管していたので、作業量は単純に倍増。
それ以上に大変なのが、シソの葉を干す作業。一枚一枚を丁寧に広げて、竹ざるを裏返した曲面に貼り付けろとのこと。工程の難しさに音を上げた筆者は平らなプラスチックざるにペタペタと貼り付けて済ませました。
最後に残ったのが、梅を漬けていた「梅酢」を日に当てる作業。ガラス容器に入れて陽に当てることと書いてあるので、外に出したままのガラス容器が割れないかビクビクでした。![]()
※2025年の梅干しと梅酢
実はこの梅の干し作業のやり方はひとつではありません。「きょうの料理」の公式サイトをみても「朝7時からがスタート」、「朝10時から始めましょう」など、スタート時間も様々。毎夕引き上げた梅は梅酢に戻せ、いや夜露にあてろなど、正反対のセオリーに目が回りそうになります。
この連休の3日間は、体を労りつつも梅干しと向き合い続けました。
今年漬けた梅の肌はすべすべしていて赤ん坊のようです。去年の梅干しは風格があります。3年前の梅干しは作者の手を離れて、深く刻まれたしわに凄みすら感じられます。![]()
※左上から時計回りに2025年、2024年、2022年の梅干し
筆者のこれまでの仕事は、コピーライター、ゲーム企画者、CGデザイナー、プログラマー、物書きなどですが、いずれも実体はなく形のないものが多かったと思います。
それだけに梅干し作りという作業は、保存食を自分の手で作ることに安心感を感じました。梅の産地や成熟度を見極めて、自分で選んだ塩とシソだけで食品に仕上げていく作業のシンプルさと意外な奥の深さに、いつしか引き込まれていました。
梅干しは平安時代には食べられていたそうですから、千年を超してミャクミャクと受け継がれてきた伝統食です。
「大暑」という酷い暑さを待ちかまえ、この暑さの中で喜んで梅を返す自分とは何ものなのか。
デジタル業界で永らく働いてきた身でしたが、この体の中に日本の伝統が流れていたのでしょうか。
梅干しというリアルな存在ひとつに、日本の食文化のエキスがたっぷりと詰まっていることは間違いなさそうです。(水田享介)