テレビで乳牛を使わない牛乳生産について報道していました。いわゆる「人工牛乳」と呼ばれるものですが、従来の食材や栄養素をまぜて牛乳に似せて作る方法とは違い、今回報道されているものの成分は牛乳そのものだそうです。
その生産方法はこうです。乳牛の乳房から牛乳を発生させる細胞を取り出して大量に培養します。この細胞は牛乳成分を作り続け、それを回収することで飲用できる牛乳になるとのこと。
遺伝子技術を農業に活用して生まれたこの牛乳を「細胞培養ミルク」と呼ぶそうです。
米Brown Foodsが培養全乳「UnReal Milk」を発表|研究室での生成に成功
2021年に創業したボストンに拠点を置くスタートアップ企業Brown Foodsは、細胞培養により生成した「世界初」の全乳「UnReal Milk」を発表した。
(FOOVO/佐藤あゆみ 2025年3月7日更新)
牛の乳細胞そのものが産み出すミルクのため「ミルクのすべての成分を同時に生産できる」(前出記事より)から、模造品ではないとのこと。
Web記事(FOOVO)によると、こうした人工ミルクはアメリカ以外にも、ドイツ、フランス、カナダ、イスラエルで研究が進んでいるそうで、なかでもフランスはヒト母乳成分を開発中。イスラエルも乳児用ミルクや高齢者用など消費者層を意識した開発が進んでいるそうです。
冒頭のテレビニュースでは、現在のところ市販価格は通常の牛乳の倍の価格になると紹介しています。
これについて消費者の反応も様々。牛による土壌汚染、大気汚染などを気にする人は「価格の問題よりも自然保護のために進んでこれを飲みたい」、価格差を気にする人は「今までの牛乳と同じ価格になるなら、細胞培養ミルクに変えることに抵抗はない」、などと培養生産品である事への抵抗は見られませんでした。![]()
21世紀になって登場する新製品、新サービスは「持続可能性」、「環境保全」をうたい文句にすることが多々あります。それらを意識的に選択することは「エシカル消費」、「サステナブル」というそうです。これまでの製品との差別化したいという願望の表れでもあります。
原子力に替わる太陽光発電にせよ、EVカー(電気自動車)にせよ、登場した時点では二酸化炭素を抑えるという一点ではすぐれていました。
しかし、大量の需要に応えるためには膨大な素材、電気、希少金属が必要で、それがために無制限に電力を消費し、森林を引き剥がし、湖を干上がらせる自然破壊が進んでいます。
工業製品として製造されるプロダクツは、時間も量も無制限に作り続けられるため、需要と供給を見誤ると途方もない電力と水、地球資源を食いつぶす恐れがあります。前提となる環境に優しい根拠がただのセールストークに過ぎない事例は枚挙に暇がありません。
実験室で育てる「培養肉」は本物の牛肉の最大25倍も環境に悪いことが判明、安価かつ低エネルギーで培養する技術に課題
アメリカ・カリフォルニア大学の調査により、少なくとも現行の培養技術で生産し続けた場合の培養肉は、店に並ぶ牛肉より桁外れに多くの二酸化炭素を発生させてしまうことがわかりました。
牛肉1kg当たりのGWP(地球温暖化係数:筆者注)が平均60kgCO2e(二酸化炭素換算キログラム)なのに対し、培養肉は1kgあたり246~1508kgCO2eで、実に4~25倍も多くの温室効果ガスが発生してしまうことが判明...。
(GIGAZINE 2023年07月15日)
私たち日本人は、「お揚げさん」をうまく煮込めば牛肉よりもおいしい肉もどき料理が作れるし、牛乳よりも豆乳を好む人もたくさんいます。
海外の遺伝子研究者たちが電力、化石燃料を無制限に使って細胞培養をした肉や牛乳らしきものをわざわざ作るのはなぜでしょうか。日本には大豆加工食という伝統料理がたくさんあるのに、なぜ欧米企業はこの事実に目を向けようとはしないのでしょうか。
「エシカル」、「サステナブル」という言葉の意味が正しく理解され使われる日はいつになればやってくるのでしょうか。(水田享介)