先週、大阪市周辺を徘徊する「迷いジカ」が話題になりました。3月25日に無事に捕獲され、ホッと胸をなで下ろした方も多かったことでしょう。
大阪迷子シカ、しかと捕獲 府内施設が受け入れ検討
受け入れを前向きに検討する施設が府内にあるといい、体制が整い次第、市はシカを一時保護施設から移す...
(日本経済新聞 2026年3月26日)
「奈良公園からやってきたシカに違いない」と噂もあるなか、奈良県知事は引取を断りました。その理由は「奈良公園の中にいるシカは神の使いの神鹿だが公園を出てしまえばただの野生のシカ」だから。![]()
初耳の理屈に世間は仰天しましたが、大阪市は快く鹿を受け入れて今後は温泉地で過ごすそうです。よかったですね。
ところで、神の使いから一転、絶滅に追いやられたシカがいたことはご存じでしょうか。
その名は「シフゾウ」。ゾウといっても動物の「象」ではありません。漢字表記では「四不像(しふぞう)」。その姿を見た人は、ひづめはウシ、頭はウマ、角はシカ、体はロバに似ているがこの四つのどれでもないことから、「四不」の姿(像)をした生き物と名付けられたと言われています。中国語では「スーブシャン」。かつては中国大陸の湿原に群れをなして生息していたそうです。
このシフゾウ、中国では神の使いや神獣との伝説があり、古くから大切に保護されていました。とはいえ、密漁などで野生の個体は日本の幕末期には絶滅したようで、清朝皇帝のお狩り場(南海子麋鹿苑)で飼育されていた群れだけが生き残っていました。
それも清朝末期に絶滅しましたが、その前にヨーロッパに買い取られた個体により、綱渡り状態で今日まで命脈を保ってきました。
人目に触れる機会のなかったシフゾウでしたから、日本ではこんな珍事件も起きています。
動物園の「珍獣」、種を勘違い 理由たどると戦争の足音
1936(昭和11)年、京都市動物園(左京区)に「珍獣スプシャン」がやってきた。...「世界中の動物園を訪ねても、おそらくここの他にはいないだろうということです」(ニュース映画「アサヒコドモグラフ」)と締めくくる。
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「実はこれはトナカイだったんです」
そう打ち明けたのは今の園長、坂本英房さん。
(朝日新聞 2020年12月20日)
「顔は馬に似て、馬でもない」...そして「珍獣スプシャン」でもなかったトナカイが、肩身の狭い思いだったかは今となってはわかりません。
現在の日本では、本物のシフゾウが動物園で飼育されています。
野生で絶滅した「神の使い」シフゾウ、国内動物園わずか3頭に...
輸入制限などで「いなくなる日が近づく」
(読売新聞オンライン 2025年10月25日)
昨年まで多摩動物公園でも飼育されていました。シフゾウの死亡を伝える公報はこちら。
シフゾウの「青葉(アオバ)」が死亡しました
(東京ズーネット 2025年6月11日)
では、シフゾウは絶滅に向かっているかというとそうとは言い切れません。
中国本土では繁殖に成功して、大規模な群れを成して居る姿が写真に収められています。
39頭から約8500頭にまで回復!中国で増え続けるシフゾウ
(人民網日本語版 2025年09月25日)
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大阪市の温泉施設に引き取られた「迷いジカ」ですが、なぜ奈良県はたいした検証もせずに、神の使いのシカをただの野生のシカと断言したのでしょう。
筆者の提案ですが、神の使いかどうかを確かめる方法がひとつだけあります。
「迷いジカの鼻先に鹿せんべいを近づける」
これだけでいいはず。奈良公園のシカであれば、必ずおじぎをしてくれます。おじぎをしたシカなら間違いなく出身は奈良県、奈良公園です。
だれか鹿せんべいを大阪まで持って行ってくれる心優しい人はいないでしょうか。(水田享介)
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【追記】
筆者がシフゾウを知るきっかけとなった本はこちら。
『絶滅動物物語』(うすくらふみ 監: 今泉忠明)
[SHOGAKUKAN COMIC 小学館]