◆サカナは希少食品になったは本当か?◆
このところよく耳にするのが「日本人は魚を食べなくなった」説です。確かにネット検索で見る人気メニューといえば、ラーメン、ハンバーグ、丼物などばかり。「寿司」と「うなぎ」が魚枠として辛うじて入るだけで、あとは日本式洋食の肉料理が大半を占めています。
家庭で作る「人気レシピランキング」(「きょうの料理」)では、その傾向はよりはっきりと現れます。食卓に登場する人気メニューは次の通り。
1.和風ドライカレー
2.豚こま肉とトマトの照り焼き炒め
3.アスパラと豚バラのレモン塩炒め
4.鶏むね肉のピカタ
5.豚のしょうが焼き
6.ハンバーグ
※「みんなのきょうの料理」(「きょうの料理」(NHK)・公式サイトより 2026年5月中調べ)
https://www.kyounoryouri.jp/recipe/ranking
季節により多少の変動はあるでしょうが、家で作りたいメニューに魚料理が登場することはまれになりました。
筆者の知るところでは「さばのみそ煮」は「おふくろの味」や「男性の胃袋をつかむ(結婚を決意させる)最終手段」と言われ、小説の中でもしばしばキーワードとして登場しました。
古くは短編『雁』(森鴎外)から黒木瞳さん主役で映画化された1980年代の話題作『化身』(渡辺淳一)まで、明治から昭和まで陰の主役をはった魚はサバくらいのものでしょう。
しかしそれも遠い昔のこと。いまでは胃袋をつかむメニューはハンバーグやカレーに置きかわった感があります。しかも「おふくろの味」という言い方がもういけません。「料理を女性の役割に固定化する不適切用語」としてジェンダー問題となるため、うかつに書けなくなりました。
魚は下処理や調理が面倒、キッチンの汚れやニオイの問題、骨があって食べにくい等の理由から家庭料理に登場しなくなったのも時代の流れかもしれません。
しかし、日本で日常的に魚を食べられない今の状況は飲食店にとって見過ごせない問題のようです。
「サカナが手に入らない!」一流店のスターシェフらが国に直談判、
日本で天然魚が食べられなくなる日
ミシュランガイドで星を獲得するような飲食店のスターシェフたちが5月18日、水産庁長官と農林水産大臣に水産物の資源を守るよう求める提言書を出した。沿岸でとれた魚をおいしく食べる日本の食文化が危機に直面している・・・。
(読売新聞オンライン 2026年5月23日)![]()
※イメージ
この記事では「魚の流通が先細りしている」から「質のいい魚が調理場に届かない」危機感が紹介されています。
高級魚の取扱減少と高騰化が店の「技の伝承」を難しくしているそうです。その一方で、マイワシやサバは獲れ高の大半が食用ではなく養殖用エサ、肥料になっている現実があります。
筆者の感覚にすぎませんが、スーパーに並ぶ魚介類は値上がり著しく、タコ、あさり、イカ、ホタテなどは高値に張り付いたままです。百グラム当たり単価は豚肉・牛肉よりもはるかに高額です。10年以上前からこの状態が続き、魚介類は昔ほど頻繁に食べなくなりました。いえ、高くなりすぎてもう買えなくなったという方が正確ですね。
日本人は魚が嫌いになったわけではなく、高嶺の花になったのが原因といえるでしょう。
この現実を国や農水省はどう捉えているのでしょうか。
「漁獲量、消費量ともに減少している原因とは!? 知りたい! 魚の今」
(『aff(あふ)2024年11月号』/農林水産省)
https://www.maff.go.jp/j/pr/aff/2411/spe1_02.html
この冊子の内容からは
「漁獲量全体がピークの1984年から、3分の1に(2022年)に減少して、人気のサンマ・スルメイカ・サケの漁獲も25%まで減っている」
「日本近海の解温水温度が上昇して魚が獲れにくくなった」
「日本の家庭で食べる魚介類は2001年の約40㎏から2023年は約21㎏とほぼ半減している」
漁獲高も消費量も急速に減少傾向が続いていることが示されています。その一方で、肉類の消費は確実に増加傾向にあります。
農水省では、魚が食べられなくなったのは「調理の手間や価格が高く感じられることなどが要因」であり、解決策として「調理の負担感を減らす工夫、旬のおいしさといった情報発信を積極的に行うほか、今、獲れている魚の価値を高める取り組み」が求められるとしています。
「魚の価値を高める」取り組みに反対はしませんが、「魚の価格を抑える」取り組みにもがんばっていただきたいですね。
筆者には釣り好きの兄がいて、時折、イカ、イサキ、アジ、ヒラマサ、タイなどが拙宅に届きます。いずれも天然物(?)と思われますのでこちらもウロコ取りなどの下処理に精を出して、おいしく頂いています。![]()
※調理前のイサキとアジ
今の子どもたちが魚のおいしさを教えられずに大人になれば、いずれ日本から魚料理は消えてなくなるかも知れません。技の伝承とは言いませんが、習慣の伝承も大切です。
おやじの下手な手料理にすぎませんが、捌(さば)いたイサキを刺身に誂(あつら)え、鉄鍋で蒸したアクアパッツァに舌つづみを打ちつつ、そんなことを考えました。(水田享介)