先日、何とはなしにSNS を眺めていたところ、不思議な記事を目にしました。
「信号手として働いたサル」
19世紀末の南アフリカで、鉄道員に買い取られたヒヒ。その名はジャック。彼はご主人の隣で信号手の仕事をすっかり覚えました。そしてペットから助手となり、信号手の試験にも合格して、ついに鉄道会社の社員として雇用されました。
俸給は、1日20セントの給料と週に半瓶のビールでした。
21世紀の今、古い記録の信ぴょう性はずいぶんと怪しくなりました。ましてや、美談や驚くような話はほぼ創作、フェイクと言えます。
ご主人様とサル、そして信号機、職場。それが一枚に収まった写真など、生成AIのお得意とする産物にしか見えません。![]()
※当時の写真(Wikipediaより引用)
そして、筆者があちこちと調べ回った結果・・・、紛れもない事実でした。
サルのジャックはご主人様の信号手としての仕事、レバー操作、車輪のロック、鍵の受け渡しなどを観察して覚えました。
さらには近づいてくる汽車が発する汽笛の回数や音の違いを聞き分けて、それに合わせたレバー操作を行えるまでになりました。
ジャックは9年の間、信号手として一度も間違えることなく働いたあと亡くなりました。その頭蓋骨はいまも南アフリカのオルバニー博物館で眠っているそうです。
実は、これと似たような話は西洋社会にはいくつも残っています。
・第一次大戦中、スパイを捕まえた野良犬のスタビー軍曹
・第一次大戦中、銃撃で重傷を負いながら通信を運んだ伝書鳩シェール・アミ
・第二次大戦中に砲弾を運んだクマのヴォイテク伍長
ビールとタバコが大好物、
第二次世界大戦で活躍したポーランド軍の勇敢なクマ「ヴォイテク二等兵」
(GIGAZINE 2010年10月14日)
いずれも戦時中の話です。明るいエピソードを求めていた報道による誇張も大いにあったことでしょう。
軍事用に訓練された動物は意図せずに行動しても、人間の目から見ると動物が助けてくれたと思いがちです。
戦争中は庶民の口に入らないごちそうも戦地には集まっていた非日常もありました。肉、缶詰、ビール、タバコ・・・。ふんだんに振る舞われれば、動物だって踊り出す?
戦争で活躍した動物たちが記憶として残る時、どこかしらもの悲しさも漂うと感じるのは筆者だけでしょうか。
筆者が好きな動物話は、人と動物が共に労働していた時代の話です。11年前に当コラムで紹介しています。
[126]グーグルの自動運転車にてごわい相手が登場
米国のある州ではロバに乗ったままカウンターまで入ってこれる店があるそうです。
ロバにまたがり店に入ってきた客は、ウィスキーを注文。それで終わりかと思いきや、店員は桶にも大量のビールを入れ始めました。
そして、当然のようにその桶をロバの前に。ロバは静かにゆっくりと味わうようにビールを飲み干すと、客を乗せたまま千鳥足で店から出ていったそうです。
(『チューリングの大聖堂 -コンピュータの創造とデジタル世界の到来-』より 著:ジョージ・ダイソン 早川書房)
(当コラム 2015年08月31日)
https://www.asuka-g.co.jp/column/1508/007783.html![]()
今の時代、サルが安全を仕切る鉄道や酔っ払ったロバに乗りたがる人はどれほどいるでしょうか。SNSで拡散されるとすぐに非難集中。存続は許されなくなるでしょう。
私たちの社会は、IT技術は進化し、人もより賢くなり、AIで効率化した社会になり・・・。
しかしその中身はと言えば、生命も実体も持たないAIという非存在に、テスト、学習、暇つぶし、労働時間、さらには生命の安全性すらも・・・。人でもサルでもないプログラムに大切で肝心なものを明け渡しつつあります。
わたしたちは気がつくと、サルのジャックよりも複雑怪奇な仕組みに身をゆだねています。それは本当に安全で信頼できるものでしょうか。この辺りで立ち止まって、考える時期に来ているのかも知れません。(水田享介)