現在、トビカンの愛称で知られる東京都美術館(東京・上野公園)では、開館100周年を記念した大がかりな展示を開催中です。
【大英博物館日本美術コレクション 百花繚乱~海を越えた江戸絵画】![]()
※公式パンフレット
公式サイト:https://daiei-ten2026.exhibit.jp/
《概要》
会期:2026年7月25日(土)~10月18日(日)
※10月13日(火) は休室日、10月12日(月・祝)は開室
開室時間:9:15~17:30
※通常は9:30。混雑緩和のため開室時間変更
※金曜日は20:00まで
※入室は閉室の30分前まで
お問い合わせ:050-5541-8600(ハローダイヤル)
この展覧会のサブタイトルが「海を越えた江戸絵画」とあるように、江戸時代の美術品がこれまでのどの展示でも見なかったような、質と量で並んでいます。
浮世絵では、北斎、東洲斎写楽、国芳、広重など誰もが知る作品が、ずらりと揃っています。しかもいずれも初刷りかそれに近いシャープな摺りと鮮やかな色彩。浮世絵好きの方ならこれだけでも満足がいくでしょう。![]()
※公式パンフレット中面
肉筆画は喜多川歌麿を始め、当代きっての有名絵師が揃っています。特に北斎の版下絵《『万物絵本大全』版下絵》の緻密な筆遣いは圧巻で、現代であればトップクラスの漫画家になれたことでしょう。
(公式サイト 「みどころ3」)
また、円山応挙は巨大な屏風絵《虎の子渡し図屏風》が初里帰り。応挙の真筆は水墨画の小品しかみたことのなかった筆者は、その迫力とサイズに目が釘付けとなりました。
(公式サイト 「みどころ2」)
日、米、英の3カ国に分散した襖絵が本展示にて約150年ぶりに一堂に会しています。
(公式サイト 「みどころ4」)
なぜこれほどの美術品がまとまって大英博物館にあるのか。それは、明治になってやって来た「お雇い外国人」らが日本の美に着目し、私財を投じて収集。その後、大英博物館の日本美術コレクションとして形をなしていきました。
「大英博物館日本美術コレクションの形成にかかわった5人」
(公式サイト 「みどころ1」より引用)
【筆者の見どころ紹介】
本職の美術評論家ではありませんが、トビカンでデッサン経験(部屋を借りただけ)のある筆者が、見どころをご紹介します。
1)北斎の筆力と貪欲な知識欲
北斎の下絵は小筆一本、墨汁だけで描いてます。その画力の高さに感動しました。この下絵で連載してそのまま印刷できたなら、日本のマンガ史は二百年は早まったでしょう。
この展示では頭蓋骨をモチーフにした作品がいくつかあります。しかしシャレコウベに「縫合線」まで入れたのは北斎だけです。北斎は西洋医学書から縫合線の存在を知っていたのでしょうか。その先進性に驚かされます。
2)お猿の行列が示す当時の階級社会
《猿草子絵巻》では婚礼の輿が行列を組み進む中、一匹のサルが裸でなにか言っています。
「まのこと、くはへり、申けり」⇒
「真実をあえて描き込みました。(裸のサルは絵師の私の姿。参列できない階級の者もいる現実を) 申けれ(描いて)みました。 」
婚礼にふさわしい身なりの行列に、いく匹か裸のサルがまざっています。裸のサルは貴族や富裕層から外れた庶民の姿と筆者は見ました。どこかを指差して何かをいっていますが、意味のない言葉です。婚礼からは相手にされない庶民。しかし行列を路肩から眺める階層(裸のサル)は必ずいる。絵師本人もここに加われない階級ということを暗に表現しているのかも知れません。
3)襖絵絵師の超絶技法の挑戦
狩野派、狩野宗眼重信が手掛けた3組がそろう襖絵は見事です。この襖絵はよく見るとさまざまな表現上の超絶技法が仕込まれています。
庭園で言う視点場(してんば)の設定。客人が4枚綴りの中間に座ることを前提として、左右に広がる構図。また、中心から遠ざかるにつれ徐々に構図はなだらかなゆがみが加えられています。
《琴棋書画仙人図襖》(シアトル美術館蔵)では、左面に置いた座卓にその技法が如実に表れています。視点場からは何気なく置かれた座卓です。しかし、左に移動して座卓の正面から見ると右端が持ち上がり、食器はいまにも滑り落ちそうです。
《秋冬花鳥図襖》(大英博物館蔵)の右端の鴨たちもひどく間延びしています。![]()
※《琴棋書画仙人図襖》(シアトル美術館蔵)の部分(筆者撮影)
※屏風は撮影可
和室で鑑賞することを前提としてその描画法を追求した狩野派。その完成した型がこの一連の襖絵でも確認できます。
さまざまな見どころが満載の本展示。本日は金曜日のため閉室は夜8時です(入室は夜7時30分まで)。
いずれの絵画たちも日本に里帰りし、さぞや古巣に戻った気分でしょう。あなたが居た江戸は東京になりました。
この機会にぜひ、江戸のポップアーティストたちに会いに行ってみてはいかがでしょうか。(水田享介)