松尾芭蕉と言えば、「古池や・・・」などの俳句や紀行文『おくのほそ道』を残した江戸時代の俳人です。「俳聖」、「芭蕉翁」とも称されるほどの文学史上の偉人でもあります。
俳句を通じて「わび」、「さび」という美意識を文学表現に取り入れた芭蕉ですから、ほとんどの人は芭蕉のイメージは老成した仙人のような姿を想起していることでしょう。筆者もそうです。![]()
※「芭蕉肖像真跡(ばしょうしょうぞうしんせき)」渡辺崋山画
天保年間(1830~1844)頃刊[パブリックドメイン:東京都立図書館所蔵]
「紙本淡彩奥の細道図〈与謝蕪村筆/安永八年十月の款記がある〉」(1779年)
(文化遺産オンライン)
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/127694
ところがその常識を軽く打ち破る大事件が発生しました。
しかもその現場は芭蕉のふるさと、三重県伊賀市。市の中央図書館で芭蕉の姿をCG作成した「芭蕉のAIアバター」がただいま、お披露目中です。
はじめまして 私がAI芭蕉です
伊賀で蘇る「29歳」、質問に返答
芭蕉のAIアバターは、館内に置かれた85型の大型液晶ディスプレー(縦約190センチ、横約100センチ)に映し出され、招かれた県立上野高校生たちの質問に答えた。
...「伊賀の思い出は」との問いかけには、「そら、山ほどあるで。当たり前やった毎日が、今思えば宝物や」などと口を開きながら答えた。
(朝日新聞 2026年10月1日)
画面の芭蕉アバターは伊賀上野から江戸に引っ越した時の年齢、29歳。着物姿にわらじ履き、手には杖、背には笠と江戸時代らしい歩き旅姿。しかし、その画像たるや、お肌つるつる、穏やかな笑みをたたえた超イケメンではないですか。
「俳聖・俳翁」のイメージを覆す衝撃が芭蕉ファンの脳裏に広がったに違いありません。
掟破りではないでしょうか、伊賀市中央図書館さん。
筆者は知っています。伊賀市が管理する芭蕉生家は「松尾芭蕉翁生家」、記念館は「芭蕉翁記念館」と、いずれも「翁」が付いています。芭蕉翁がヤングなイケメンであってはおかしくないですか?
そして筆者が大学時代に受講した江戸時代の連歌~俳諧の講師だった恩師・雲英末雄先生は、その芭蕉翁記念館で講演会もしています。
筆者は学生時代から幾度も雲英先生の薫陶を授かりました。大学卒業後、コピーライター職に就いた筆者は恩師からたびたび自宅書斎に招かれ、貴重な蔵書や自著を紐解きながら大学時代と変わらぬ講義を受けていました。
しかしながら、悲しいかな、筆者には学究の道にも俳諧の道にも進むほどの才覚はなく、コラムニストという現在があります。
「俳諧の世界‐芭蕉とその門人たち」
雲英文庫公開記念展示(雲英末雄 早稲田大学名誉教授)
https://www.waseda.jp/library/news/2015/03/05/1501/
恩師の貴重な講義に筆者はいったいどれほど報いることができているでしょうか。
筆者のお願いとしては、できれば芭蕉アバターは、健脚を鳴らした「おくのほそ道」時代、老成した晩年のお姿もご用意頂きたいものです。(水田享介)