タイ王国は2000年頃から東南アジアにおける自動車生産の中心地となり、「アジアのデトロイト」とも言われるほど自動車産業が発展してきました。
しかし、ガソリン車からEV(電気自動車)へ。この流れは世界的潮流であり、つい先日、日本にも中国製EVが上陸しました。
そのタイでも、庶民の足「路線バス(赤バス)」のEV化が検討され、来年(2027年)にはガソリン車のバスすべてをEVバスに転換すると決まりました。
「赤バス」とはエアコン無し、料金は均一(8バーツ:40円弱)、バンコク市内のどこでも見かける「ゲタ履き」的存在です。
筆者もアジアを撮影して回っていた頃、路線マップを片手に赤バスを乗り継ぎ、観光名所や電気街、ディープな市場を散策したものです。
バンコク名物「赤バス」運行終了へ 2027年までにEVに切り替え
高温多湿のバンコクだが、エアコンは付いていない。走行時に黒い煙を吐き出しながら、窓を全開にして走る...。
(朝日新聞 2025年10月4日)
バンコクの「赤バス」引退へ、EVバス1,520台を2027年3~5月に納入
長年にわたりバンコクの日常の足として走り続けてきた「赤バス」。2027年春から始まるEVバスの本格投入によって、その姿は段階的に街から消えていくことになります。
(THAILAND HYPERLINKS 2026年9月2日)
赤バスに変わるEVバスは「青バス」との愛称で、未来的なデザインに冷房付きと、四角く無骨な赤バスを一瞬で吹き飛ばすような勢いがあります。
「30年も続いた赤バス時代はいよいよ終わり」
誰もがそう思ったとき...、2026年9月半ば、バンコク市内は突然の大雨に襲われ、市内全域が冠水したのです。
膝上から腰までつかる浸水、場所によっては胸までの深さの大水。ボートが出動して救助する様子も報道されました。
このときバンコク市内の道路はどうなったでしょう。ほとんどの乗用車は冠水に耐えられず立ち往生。EVにいたってはいち早く避難したのか、一台も見かけなくなりました。
そして、河のようになった道路で、放置されたクルマを縫うように走るバスの姿が!
「赤バス」です。![]()
この冠水の中、「赤バス」はタイヤを半分まで沈めながら、いつものルートでいつものバス停へ走り来たり、乗客の乗り降りを確認するや、何事もなく去っていきます。![]()
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※画像提供:「タイ トレイン フォト Thai Train Photo」 さん
泥水をかき分けて走るその姿、まさに「バス界のクルーザー」
人が困っているとき、途方に暮れるとき、ワラにもすがりたいとき、颯爽と現れるのは○○レンジャーが定番ですが、ここ、バンコクでは「赤バス」だった。
かっこいいクルマとはこういうことでしょう。
その結果、何が起きたでしょうか。
バンコク名物「赤バス」一部存続へ、洪水時の緊急予備車両に
赤バスは、バンコク市民の足として長年運行されてきた非冷房の路線バスです。
Bangkok Postによると、9月末にバンコクで発生した洪水では、老朽化した赤バスが冠水した道路でも乗客を輸送...。
(THAILAND HYPERLINKS 2026年10月4日)
「緊急時にはバスは水深80センチメートルまで運転でき、従来の燃料システムでは現場で給油して運行を継続できます。」
(バンコク大量輸送公社(BMTA) キティカン局長の投稿より)
水深80センチでも走るバスとは信じがたいですが、運輸公社トップの発言ですから、一聴に値します。
また、赤バスは冠水対策を施したバンコク仕様です、と設計者「T.OOTAKE」氏。
「T/Mとデフのブリーザーに防水プラグしてます。エアクリーナーも防水で吸気口も上げてます。タイは洪水が多いので対策済。AK176は40年近く走ってます。私が新人の時設計しました。悪路100%でも大丈夫な最強のバスです。」(X投稿より。引用許諾済)
※車両は 「日野自動車 AK176」
バンコクの日野レトロバス
AK176は日野自動車が海外向けに製造したシャーシ「AK」シリーズのひとつ。
運転席の下にエンジンがあるキャブオーバーの大型バスで、タイ製のボディを架装している。
(電車とバスの写真館)
赤バス復活をにおわせるキティカンBMTA局長ですが、新聞に出た発言はこうなっています。
「(排ガス対策など)改装されたバスは、通常の路線では運行されなくなり、必要に応じて「緊急予備バス」として運用される。」
(Bangkok post 2026年10月3日)
今後の予定では、赤バスの中で状態の良いものだけを選び、緊急用に出動する予備バスとなる、とのことです。
もう路線バスとして日常的に利用することはかなわないのでしょうか。
引導を渡されひっそりと引退するはずが、その同じ9月に冠水したバンコクを走り回り、市民の足としての存在感を示した「赤バス」。
その姿は、火の玉の落ち際に、ひときわ輝く線香花火のようですね。(水田享介)