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 【普通の本屋 を続けるために/第3回・スリップを読み解いて、お客さんを知る】 久禮亮太
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【普通の本屋 を続けるために/第3回・スリップを読み解いて、お客さんを知る】 久禮亮太

今回は、売上スリップを読み解いて、これまでの売れ方やこれからの品揃えにつなげていくことについて考えていきます。


第1回:「ごあいさつ」
http://www.asuka-g.co.jp/event/1603/007768.html
第2回:「まず、荷物を開けてみよう」
http://www.asuka-g.co.jp/event/1604/007871.html



●スリップは宝の山

レジでお会計の際に書籍から抜き取ったスリップを、
皆さんのお店ではどうしていますか? 
スリップは見ずに捨てているというお店も多いと思います。

スリップは、売れた本の分身です。
品揃えのアイディアや連想を生む引き金になります。
ですから僕は、全ジャンルを舐めるように見ます。

様々なメモを書き込みながら、
一冊一冊の動きを把握することはもちろん、
スタッフとコミュニケーションをとる手段としても活用します。

開店から売れた順にスリップを裏返してためておき、
翌日にその束を表から、一日の流れに沿って
売れ方を追っていきます。
もちろん、POSデータで昨日の売上一覧をチェックして、
急ぎの追加はウェブで行います。
それとは別の目的で、スリップの束をあえて時間をかけて
読むのです。

毎日の業務の中でそんな時間の余裕は無いと思いますが、
それでも他の作業より優先してやるべきです。
売上スリップを通して
お店全体の流れをつかんでおかなければ、

後々の棚づくりで無駄に悩んで
時間と気力を浪費するか、

曖昧な判断を積み重ねて売上を失うことになる
からです。



●スリップ活用のための仕込み

棚挿しする際は日付をスリップに手書きします。
品出しをしながら気になったものには
奥付の重版回数を書き写し、
平積みから挿しにするときには
売れ数をメモしてから棚に入れるといった
「仕込み」をします。

「必備スリップ」も活用します。
取次に依頼し最終発注日付とこれまでの回転数を
印字してもらい、これを書籍に挟み込むのです。
そうすることで、記入のない真っさらなスリップは
平積みや面陳で売れたことが、
日付や回転数などが記入されているものは
棚で売れたことがわかるのです。

回転数や日付を確認しながら、頻繁に回転しているなら
2冊ほど追加して面陳にするとか、
随分と古い日付でようやく売れたのなら
回さないで捨てるといった判断をします。

棚売れスリップは「補充」の束に仕分けます。このとき、
その半券の売上カードをちぎって元の束に残し、
他のスタッフとも棚で売れた書籍の情報を共有します。
「補充」の束は、あくまで発注候補です。
何日かに分けて発注することで、
数日後の仕事量や月次の支払い額を調整します。



●スリップの読み解き方

スリップを読む際には、
目に留まったキーワードや著者名などを○印で囲み、
連想されたアイディアや既刊の題名、
ちょっとした豆知識を書き込みます。
同僚へのメッセージとして、
「これは売れるから積むべきだ」とか、
「いい既刊見つけたね」、「追加対応遅いよ」
などと書き残します。
スタッフ全員が担当ジャンルに関係なく、
スリップの束を回覧し自由に書き込むことで、
気づきを共有するのです。

毎日こうしていると、
自分が反応しやすいトレンドの傾向や、
同僚が自分とはずいぶん違った観点から
客層を捉えていることなどを発見します。
単純に、売れている著者などの
固有名詞を記憶する訓練にもなります。

お客さんのまとめ買いは、
そこに暮らしぶりや願望といったものが露わになっていて、
とても面白いものです。
おひとりで何冊も買ってくださったら、
そのスリップはコミックも文庫も問わず、
その場でホッチキスか輪ゴムで止めておきます。

例えば育児の本と雑誌「VERY」のスタイリスト本と
TOEIC900点狙いの参考書を買ったのは、
「30代になってから出産したが職場に復帰して頑張る
外資系バリキャリ・ママさんだろうか」―。
こんな想像をしながら、様々な人物像をストックしていきます。

まとめて数千円もの身銭を切って買うのですから、
そこには切実なニーズがあります。
興味の赴くままにあちこちの棚から
ジャンルに関係なく選ばれた本たちは、
その人を軸にして強く結びついています。
そのリアルな選書には、
他のお客さんにも響く説得力があるはずです。

バラバラのスリップからも共通するトレンドを感じ、
他人が別々に買った連なりからも
新たな人物像を発見することがあります。
その人が次に来店したときにどんな本に出会い、
どんな組み合わせの平積みならテンションが上がるか。
その観点で、平台を編集していきます。

例えば、ビジネス書のリーダーシップ本のとなりに
演劇の舞台演出論の教科書、
上品な英会話の例文集のとなりに
『ティファニーのテーブルマナー』(鹿島出版会)、
WordPressの技法書のとなりに
『日本語の作文技術』(朝日文庫)
といった並びがあってもいいわけです。

こうやってリアルな読者にピンポイントで
ハマりそうな既刊を探しては組み込む作業を続けることで、
その場所にお客さんを引きつける力が強くなります。
傾向の似た新刊が出たときには、その場所に投入することで、
読んでもらいたい人に確実に発見してもらえるようになります。



●ビッグ・データを本当に活用するためには

属人的な購買データは、
amazonや日販のHonyaClub、WIN+といったシステムに
膨大に蓄積されています。
しかし、抽象的なビッグ・データを自店の
規模や客層に合わせた品揃えに落とし込むには、
売り場の物理的な制約や実在のお客さんの流れといった
身体感覚で翻訳する必要があります。
その感覚を養うには、
品出しとスリップ読みの繰り返しが一番なのです。

スリップをよく読んで
お店とお客さんの織りなすコミュニケーションを感じながら、
次回は実際に棚や平台を作ってみましょう。



◆久禮・亮太 (くれ・りょうた)

1975生まれ。高知県出身。元あゆみBOOKS店長。
現在はフリーランスの書店員「久禮書店」の店主として、
ブックカフェの運営や新刊書店の棚作り、スタッフ研修
に携わっている。
月・水・金曜は4歳の娘と一緒に家族の仕事を、
火・木・土曜は外で書店の仕事をこなす毎日。

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◆本連載は、書店向けDM誌 『明日香かわら版』 の
記事をもとに再構成したものです。
毎月末の更新で、全10回の予定です。

  
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