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 【普通の本屋 を続けるために/第9回・書店の価値と利益を考える】 久禮亮太
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【普通の本屋 を続けるために/第9回・書店の価値と利益を考える】 久禮亮太

▼「棚の強度」を守り、「棚の体験」を強くする

書籍の売上げが減り、稼働しない在庫が重たくなると、
書棚を圧縮してでもより売上げがとれる、あるいは粗利が
とれるものはないかと考えます。
書籍との親和性が高く、粗利がとれるものということで、
カフェ・スペースあるいは文具売り場ができたといったこと
は皆さんの現場でも少なくないかもしれません。

安価な初期費用で導入できるカフェや文具売り場の
パッケージを利用すれば、たしかに少ない労力で売り場を
有効に転用できるかもしれません。

しかし、コーヒーと書籍、あるいは文具と書籍を扱うとし
ても、その両立は簡単ではありません。
「売り場構成、商材の組み合わせで、お店全体として
どんな体験を売りたいか」という思いや具体的な企画
が伴わなければ、性格の違うそれぞれの商売を維持して
いくことは難しい
と感じています。

書店が提案できる一番の価値は、やはり「棚の強度」です。
もちろん什器の耐久性のことではなく、品揃えの充実した
棚をめぐる「体験の強さ」という意味ですが、専業の新刊
書店においても、この「体験」が重要だと再認識しています。

▼書店×カフェの課題

粗利を上げるためにカフェを導入するとどうしても避けて
通れない課題が3つあります。

①カフェ・メニューの粗利率は静的に見れば書籍よりも
高いのが一般的ですが、客単価が書籍より低く、売上げ
は客席の回転率に規定されるため、動的に見るとさほど
簡単には旨味を得られるものではありません。

②多くの場合、競合する飲食店があります。その場合、
「本を自由に読めるカフェ」と打ち出せば、ライバル店
にはない強みになるかもしれません。しかしそうなると、
容易に読めて情報を消化できるタイプの書籍・雑誌は売れ
にくくなり、書店としては難しい課題を抱えます。また、
カフェに滞在する時間が長くなり回転率が上がりません。

③カフェだけでなくランチやテイクアウトにも対応した
フード・メニューに取り組むとなると、多様な業務に対応
するスタッフさんの研修や時給も検討しなければいけません。
そうすると、書店・カフェ両方の売上げを下支えする商材
をさらに考える必要が生まれるかもしれません。

▼適切に書棚を縮める

カフェを導入した場合にも、座席を確保するために縮小した
書籍売り場には、そのサイズに合わせた適切な棚の再編集と、
品揃えの魅力や鮮度を維持する日常業務が必要です。
無理な縮小や不自然なレイアウトでは、単に「小さくなった
書店」とただのカフェが隣り合っているだけの「魅力のない
売り場」になってしまいます。

ブック・カフェだからこそ演出できる体験を作り出すには、
新しいサイズに適したアイテム数や、レイアウトの狙いに
沿った動線の流し方を構築する必要
があります。

カフェにたまたま座ったお客様に、本との意外な出会いを
仕掛け、いかに書店の奥へと足を向けさせるか。または、
本がカフェで交わされる会話のきっかけとなって、豊かな
時間を作り出せるかどうか。文具を導入するなら、「読む」
と「書く」をどうつなげて提案するか。生活雑貨を導入する
なら、そのアイテムから想像されるライフスタイルの広がり
を書籍でどう表現するか。

いずれの場合にも、まず正しく返品を抜き書棚を縮めること
と、売り場を再編集すること、新たな書棚を日々回していく
作業が必要です。私たちの考える「普通の本屋」のための
思考と技術は、複合業態の書店にも必ず求められるはずです。

しかし現実には、複合業態に踏み出せば日常の雑務は
急激に増えます。限られたスタッフで期待通りの相乗
効果を生み出すことは、とても難しいものです。

▼バーゲン本を扱う理由

それならば、餅は餅屋として、書籍の中から多様な売り方や
粗利を得る試みも考えられます。いわゆるバーゲン本の取り
扱いです。ここでいうバーゲン本は、古書ではなく、様々な
理由で出版社から放出された余剰な新本の在庫処分品です。
わざわざ売り場を割いてバーゲン本を導入するなら、やはり
仕入れが安価で値付けの自由な買切条件で仕入れをするほう
が良いでしょう。

バーゲン本の多くは新本定価の2~3割が卸価格となって
います。販売する際の値付けは基本的に自由ですが、新刊書店
の売り場では、「定価の半額セール」としていることが多い
ようです。
例えば、定価2000円の書籍を400円で仕入れ、自店では
1000円で販売すると、600円儲かる。すべて完売した場合の
理想値は、粗利60%となります。

もちろん実際には売れ残りが生じます。返品はできない
ため、在庫の額だけ粗利は食われ、在庫処分セールで消化
したとしても、値引きした分は目減りします。
したがって高い利益率に仕上げるには、在庫を持ちすぎず、
あらかじめ販売期間を決めておく必要があります。

具体的には
 ・毎月末に仕入れると決めておき、
  月内に売り切れる程度の在庫しか持たない
 ・月初には新タイトルが入荷することを周知して、
  早い時期に買い手がつく流れを作る
 ・在庫が一定数を下回ったときに仕入れると決めておく
 ・バーゲン・セールの会期を定めて告知しておき、
  終了した時点で残った在庫をチェーン他店に送って巡業する
といったやり方です。

バーゲン本を扱うのは、単に粗利率が高いからではありません。
買切条件に慣れることで、仕入れの目利きと残り在庫の調整の
手腕
しだいで大きな粗利が得られる「商売の基本」を訓練する
ことに
狙いがあるのです。

また、バーゲン本コーナーがより効果的に機能するためには、
新刊書店としての品揃えがしっかりとしている必要があります。
バーゲン本といえども、ただ安ければ買ってもらえるわけでは
ないからです。「良い本が安い」という驚きがあってこそ、
バーゲン本コーナーにイベント性が生まれます。「良い本」を
求めるお客様を日頃から引きつけておくには、新刊書店として
の棚の質が求めらます。

▼書店の一番の売り物は「体験」

専業の書店も複合書店も、一番の売り物は、実は本やコーヒー
ではなく「体験」ではないでしょうか。

著者や編集者は1冊の本を生み出します。私たちは本屋は、
本の魅力を伝えながらも、本と本の間に本ではない新しい意味
を生み出します。
1冊の本に封じ込められた世界と本たちが編み合わされ、
書棚と平台に広がる世界が入れ子になった
「書店空間をめぐる体験」こそが、お客様に提供できる
一番の商材ではないか
と考えています。
場合によっては、本は、その体験の「お土産」なのではないか
とさえ感じます。

多種多様な書店の形態が生まれても、そのお店のお客様に
合った良い棚めぐりの体験を作る技術や知識は、さほど大きく
は変わらないと考えています。良い棚、売れる棚を作る
シンプルな考え方や技術を身につける上で、バーゲン本を買い
切って売る仕事はとても良い訓練になるのではないでしょうか。


◆第1回:「ごあいさつ」
 http://www.asuka-g.co.jp/event/1603/007768.html
◆第2回:「まず、荷物を開けてみよう」
 http://www.asuka-g.co.jp/event/1604/007871.html
◆第3回:「スリップを読み解いて、お客さんを知る」
 http://www.asuka-g.co.jp/event/1605/007907.html
◆第4回:「棚と平台を理解するために」
 http://www.asuka-g.co.jp/event/1606/007944.html
◆第5回:「棚前の平積みこそが売上をつくる!」
 http://www.asuka-g.co.jp/event/1607/007997.html
◆第6回:「平台を編集する」
 http://www.asuka-g.co.jp/event/1607/008053.html
◆第7回:「一冊に賭ける仕掛け売り
 http://www.asuka-g.co.jp/event/1609/008109.html
◆第8回:「データから次の判断を学ぶ」
 http://www.asuka-g.co.jp/event/1611/008221.html

◆久禮 亮太 (くれ・りょうた)
1975生まれ。高知県出身。元あゆみBOOKS店長。
現在はフリーランスの書店員「久禮書店」の店主として、ブックカフェの運営や新刊書店の棚作り、スタッフ研修に携わっている。
月・水・金曜は4歳の娘と一緒に家族の仕事を、火・木・土曜は外で書店の仕事をこなす毎日。
IMG_0626.JPG

◆本連載は、書店向けDM誌 『明日香かわら版』 の記事をもとに再構成したものです。
 2月には冊子版が完成予定です。(書店様限定)
 お楽しみに!
  
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