「できる!」ビジネスマンの雑学
2016年09月23日
[295]シーボルトが日本に残したもの

 シーボルトは江戸時代後半に長崎・出島にやってきたドイツ人医師で、徳川幕府から厚い信頼を得ると、長崎に医学校の鳴滝塾を開設。最新の医療技術を日本人に教えて、西洋医学の普及に努めました。
 また、生物学、民族学にも造詣が深く、彼が日本から持ち帰った植物標本や美術品は、こののちにヨーロッパで始まったジャポニスムの源流とも言われています。
 また、シーボルトがアジサイに付けた学術名「Hydrangea otaksa」は、彼が愛した日本女性「お滝さん」にちなんだ命名のようです。

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(「シーボルト肖像」 川原慶賀筆)

 日本で収集した膨大なコレクションを元に何度も日本展が開かれたことにより、ヨーロッパの人々にとっては空想にすぎなかった「黄金の国ジパング」が、高度な異文化を持つ国家として実在することを知ることとなりました。
 この時の展示品は、今もヨーロッパの各地で大切に保管されています。

 そして、ミュンヘンに保管されてきたコレクションが、このたび日本に里帰りしています。

「よみがえれ! シーボルトの日本博物館」
http://siebold-150.jp/
2016年09月13日(火)~11月06日(日)
江戸東京博物館 1階特別展示室

 ところでシーボルトがただの日本愛好家で終わらなかったことを、日本史を学んだ方ならご存じでしょう。
 シーボルト事件(1828年)です。

 持ち出し禁制の日本地図や日本の国内事情を分析した文書が帰国の積み荷にあったことで、シーボルトは国外追放となり、関係した日本人は捕らえられ、その多くは罪人として処刑、処罰されました。

 シーボルトと日本の関係はこれで絶たれたかに思われましたが、1859年、彼は30年振りに幕末の日本に舞い戻ってきます。しかも、息子をつれて。

 シーボルトは先述の「お滝」との間に、娘の「イネ」をもうけていましたが、そのイネにも娘「高子」がおり、一気にシーボルトおじいちゃんとなってしまいます。
 再会の折、シーボルトは
 「『如何な日も如何な日も』決してお前たちのことは忘れたことはない」と言い、
 それを聞いたお滝たち三人は
 「祖母タキも、母イネも、私もみな胸一杯になりまして泣きました。 シーボルトが、祖母タキ、母イネ、私三人に出島であいました際には、母イネだけが少し蘭語を使いましたが、シーボルトは終始日本語を使いました」
(山脇タカ子談 原文はカタカナ ※1)

 シーボルトの孫に当たる山脇タカ子(別名は楠本高子)の証言によると、30年振りに再会を果たした場所は、あの「出島」だったのです。
 高子は昭和13年まで生存しましたから、出島のあった時代が急に身近に感じられるのは、筆者だけではないでしょう。

 ここまでならホームドラマのような美談ですが、それで終わらなかったのがシーボルトでした。さまざまなスキャンダルを巻き起こし、しだいにタキたちとも疎遠になっていきます。(※2)

 もともとシーボルトは、タキたちと再会するために来日したわけではなかったのです。徳川幕府の外交顧問を務めるほか、ロシア、プロシア、フランス、オランダの外交官たちとも日本の情勢について情報交換していました。
 日本を平和裏に開国させる、という難題に取り組んでいたと言われますが、オランダ軍の高級士官の地位にあり続けましたから、オランダの権益を守る使命を帯びての来日だったことは確かでしょう。

 こうした微妙な立場が影響したのか、シーボルトは幕府から外交顧問を解任され、江戸退去を命じられます。帰国後も3度目の訪日を望みながら明治維新を聞くことなく1866年、シーボルトはミュンヘンで没します。享年70。

 その後のタキたち三人はどうしたでしょう。実は、シーボルトが日本に連れてきた息子たちが、異母姉にあたるイネや姪の高子を助け続けます。
 1871年(明治4年)、イネは日本人女性初の産婦人科医院を東京で開業しますが、その資金援助をしたのがシーボルト兄弟でした。弟のハインリヒはイネが医者を廃業した後も、終生、面倒を見たそうです。
 いろいろあっても、やはり家族愛は世界共通ですね。

2016092302.jpg
(楠本高子(満16歳) 1868年撮影)

 なお、シーボルトの孫に当たる「楠本高子」はその美貌から、後の『銀河鉄道999』のメーテル『宇宙戦艦ヤマト』のスターシャのモデルとも言われています。
 真偽の程は写真にてご確認ください。(水)

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◆参考リンク
江戸東京博物館
http://www.edo-tokyo-museum.or.jp/

※1 「かつて慈恵に在学した興味ある人物 楠本周三」(著:松田誠)
※2 吉村昭『ふぉん・しいほるとの娘』(新潮文庫)


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