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 【普通の本屋 を続けるために/第6回・平台を編集する】 久禮亮太
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【普通の本屋 を続けるために/第6回・平台を編集する】 久禮亮太

売り上げを伸ばすことは、次の3つで成り立っています。

もっと多くのお客さんが入店してくる
1冊でも買いたくなるものや必要なものがある
2冊、3冊と、より多くまとめ買いしてくれる

今回は③の、平台を編集する視点について考えましょう。


◆第1回:「ごあいさつ」
 http://www.asuka-g.co.jp/event/1603/007768.html
第2回:「まず、荷物を開けてみよう」
 http://www.asuka-g.co.jp/event/1604/007871.html
第3回:「スリップを読み解いて、お客さんを知る」
 http://www.asuka-g.co.jp/event/1605/007907.html
第4回:「棚と平台を理解するために
 http://www.asuka-g.co.jp/event/1606/007944.html
第5回:「棚前の平積みこそが売上をつくる!」
 http://www.asuka-g.co.jp/event/1607/007997.html


①の入店客数を上げることと、
③のまとめ買いを誘う魅力のある品揃えは、
密接に関係しています。

常連のお客さんも飽きないよう魅力を更新し続ける。
ついつい余計に買って客単価が上がるような置き方を狙う。
独自の視点のある品揃えや話題性のある特集棚、イベント
企画を外に向けて発信することで新しいお客さんを呼ぶ。
これらはひと繋がりの重要な仕事です。

「普通の本屋」を続けるために経営の面で必要なのは、
コストを下げ、在庫負担を減らし、
文具・雑貨や喫茶でとにかく粗利を稼ぎ、
報奨金などの「真水」の現金をすぐにでも獲得し
純利益を上げることかもしれません。
現状の中で縮小均衡の着地点を探すためには、大切なことです。

またこの先もずっとお客さんに必要とされる本屋の価値が
何なのかを常に考えながら、それを売り場に落とし込み、
本屋自体を売り込むことも大切です。



●お客様あっての書店



「品揃えにこだわった書店」というと、担当者の趣味が
出過ぎて、
格好は良いが売れないお店を想像しがちです。

ただ、まずは青臭い自己主張でもいいから、
主体的に品揃えを作ることは大切です。それは
「人に奉仕する」、「売り上げを作る」、「利益を高める」
といった商売の本質に意識を向ける第一歩だと思うからです。

その上で、お客さんの評価を受け止めて、
短期間のうちに品揃えを変えていく過程を踏めばいいのです。
売上スリップとレジでの接客から売れ方を学び、
売り場のスリップに書き込んだ数字から売れていない現実を
理解するのです。
これは、自意識と他者の視点を擦り合わせる
人間的成長の機会だと捉えています。

そうはいっても
自分のスタイルを貫いて表現することも大切です。
書籍の実売を稼ぐ場所と、
面白い表現をしてお店自体の価値
を売る場所の
濃淡を使い分ける
のです。

稼ぐアイテムと雰囲気を作るアイテムは、
その二役を同時に担う書籍もありますし、
隣同士に組み合わせることで、平台全体の
バランスをとることもあります。
ありきたりでも実際よく稼ぐ平台と、
本好きを唸らす緻密な挿し棚というふうに
分かれることもあります。



●バランスよく売るには



僕たちの考える書店は
そんなに大きなものではありませんから、
できれば、どの売り場もバランス良く売れてほしい。
では、実際の作業はどうしたらよいのか考えてみましょう。

まず、レジ前の島平台などの一等地を考えてみます。

実売面から見ると、
各ジャンル・コーナーへ下げても売れる本は
積極的に移動し、空いた場所により多くの既刊に
チャンスを与えつつ、お店全体の販売力を高めるように
しています。

POSの上位銘柄ばかりが一等地に集結している状態は、
前がかりすぎるので、これではお店の奥への導線が描けません。
お目当ての買い物がある人にとっては便利かもしれませんが、
書店というメディアの表現は面白くならない。
目的以外の買い物には波及しない、断片化された売り場に
なってしまいます。

次に表現面を考えると、
全体的に緩やかに関係している並びだけど、
あるテーマで括っているとは読まれにくいように、
繋いでいきます。

説明臭い並びよりも、行間を読ませるくらいの加減の方が、
平台に注意を惹きつけられるからです。

小さな店舗がその制約を強みにできるのは、見渡せる範囲内で
幅広い世界観を表現できたときです。
連想の飛び石の間隔を調整して、限られたアイテムで多様な
トピックを網羅することを狙っています。

また単品ごとの視点から見ることもできます。
一等地には、各ジャンルの限定的な実用性を越えて
多面的な魅力を持った、個の力が強い書籍が集結しています。
ある本が予想以上に売れるのは、想定していなかった読者層
までもが買い始めるからです。
専門的な内容でも、
様々な読み方、使い方の可能性を感じる本は、

ロングセラーになりえます。
そういう本は、
様々な人が行き交う露出度の高い平台に置いてこそ、
正しく結果が出ます。

新刊・既刊を問わず、そのようなロングセラーの候補を
掘りだしては
一等地の平台に植え込むのは、
その時々の新刊の出物の有無に
影響されずに
安定した販売力の基礎を固める上で重要
です。

棚前の平台はより目的意識が絞られ、
お客さんを想像しやすい場所です。
特にビジネス書や語学書の棚は、
役に立つものには出費を惜しまない
意欲のある読者が付いています。

ここでは、
「プロフェッショナルとは」、「理想のライフスタイル」、
「コミュニケーションに強くなる」、「思考力を鍛える」、
「お金と暮らし」、「勉強法と時間術」など、
明確なテーマを設定できます。



●緩い群れの重要性



このテーマに沿って、構成するアイテムは
入れ替え可能な
緩い「群れ」を作ります。

長く辛抱してロングセラーに育てるものと、
短期に売り抜けるものを組み合わせながら、
新陳代謝しても場所の意味や魅力、
そこに付いたお客さんを維持する枠組みを置いていきます。
まずは、2点や4点など、
まとまりのよい小さな群れから始めます。
大きくても12点くらいの枠を単位として、
販売効率を目指します。

このような群れを定着させられれば、
人文書や芸術書、健康書を
ビジネス・コーナーで売ることもできます。
もちろんビジネス書を基本とした構成ですが、
その中に置くからこそ光るタイトルがあります。



このように面白く絡み合った品揃えに
安心して取り組むためには、
ジャンル担当の垣根を越えて話し合う時間と、
既存のジャンル別売上額や
その前年比だけによらない査定基準で

管理者がスタッフの仕事を後押しすることが必要です。

集計された抽象的な数字ではなく、
書籍の1点1点に対して個別に、
正しい置き方をしたか、
十分な冊数を売る手当てをしたか
という判断を
積み上げていくことでのみ、
正しい仕事やその評価ができるはず
です。


◆久禮・亮太 (くれ・りょうた)

1975生まれ。高知県出身。元あゆみBOOKS店長。
現在はフリーランスの書店員「久禮書店」の店主として、
ブックカフェの運営や新刊書店の棚作り、スタッフ研修
に携わっている。
月・水・金曜は4歳の娘と一緒に家族の仕事を、
火・木・土曜は外で書店の仕事をこなす毎日。

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◆本連載は、書店向けDM誌 『明日香かわら版』 の
記事をもとに再構成したものです。
毎月の更新で、全10回の予定です。

  
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