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 2012年10月
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宮本輝は、どの作品もおすすめできる希な作家だと思います。
今まで読んだ作品をざっと挙げても、『泥の河』『蛍川』『青が散る』『春の夢』『骸骨ビルの庭』『三千枚の金貨』『約束の冬』『星々の悲しみ』『五千回の生死』、エッセーでも『命の器』『二十歳の火影』などなど。
まだ私の本棚には彼の作品がありますが、どれも外れない。
がっかりさせない。
作家と読者との相性ももちろんあるでしょう。
万人が感動する作品など存在しない。
でも、私にはぴったりと合う。
芥川賞選考委員の選評も宮本輝のみを参考にしています。

で、その中でも今回紹介したいのは『三十光年の星たち』。
東日本大震災以降に読んで、最も感動した小説です。

 主人公は三十歳の青年。仕事も愛する人も失い、借金だけを抱えている。
彼は自暴自棄になりながら、金を貸してくれた佐伯老人の命令を拒否できず、言われるままに助手として働くことになる。
貸した金を返してもらう旅に出る。
この始まりから、次々と出会いと学びと実践が生まれていく。
自然に流れていく物語は、青年の面の皮を何枚も剥がし、心の中心に忘れてはならない真実を打ち込んでいく。
人生の先輩から後輩への言葉がいちいち深い。
読者であるはずの私は、いつの間にか小説中の青年に成り代わり、己に刻みつけようと何か所も線を引いていました。

 最も感動した箇所を引用してみます。
「この坪木仁志というまだ三十歳の青年は、心がとてもきれいなのだ。人の痛みを我が痛みとできる心を持っている。だが、その心を生涯持ちつづけるのは至難の業だ。前にも言ったが、人の心ほど移ろいやすいものはない。

 三十歳のきみのきれいな心が、三十年後にどう汚れているか、誰にもわからない。人を見る尺度は三十年だと、ある人がぼくに言った。いまぼくは、その人の言葉の意味の深さがわかる。

 無論、人生には何が起こるかわからない。
 二歳で死ぬ人もいる。三十歳で死ぬ人もいる。百歳まで生きる人もいる。
 死に方も千差万別だ。不慮の事故に巻き込まれる場合もある。重い病気にかかる場合もある。避けられない天災に遭う場合もある。

 しかし、そんなことは恐れるな。三十年後の自分を見せてやると決めろ。きみのいまのきれいな心を三十年間磨きつづけろ。

 働いて働いて働き抜け。叱られて叱られて叱られつづけろ」 (上巻292ページ5行目から17行目)

 避けられない天災によって多くの人たちが死んでいった。呆然とし混乱し不安に駆られ今までの自分の歩みを見失っていたとき、必要に突き動かされて読んだのがこの本でした。「三十年後の自分を見せろ。働いて働いて働き抜け」 どれだけ支えられたかわかりません。

 その時の思いを、今も持ちつづけているか? きれいな心を、磨きつづけているか? 『三十光年の星たち』を本棚に見るたびに、自分に問いかけています。

リブロ池袋本店 菊田 和弘

書名 『三十光年の星たち 上・下』

ISBN 上・9784620107677

     下・9784620107684

本体価格 各1500円

出版社 毎日新聞社
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